表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『職業:悪役(たまに正義の相談役)』   作者: よしお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/97

第80話 「悪役、変身途中を狙うのは礼儀だろ?」



二つの拳が巨大AIの胸部へ突っ込んだ瞬間、

赤い光が爆ぜ、空気そのものが悲鳴を上げた。


衝撃波が直線に伸び、

瓦礫の山を一瞬で平らに押しつぶす。


アオトは地面をえぐりながら踏みとどまり、

拳を押し込み続けた。


黒アオトも横で、同じ軌道で拳を押し込み続ける。


赤光の中心がひび割れ、

巨大AIが狂ったように咆哮した。


セレナが叫ぶ。


「止まってる!

 二人の攻撃で……融合が止まってる!!」


レイが息を呑む。


「マジで止めてる……!?

 殴って止めてるの!?」


アオトは歯を食いしばったまま叫ぶ。


「知らねぇよ!!

 理屈どうでもいいだろ!!

 止まってんなら殴り得だ!!!」


黒アオトも淡々と続ける。


「押し切る。

 お前が前を取るなら、オレは隙を作る。」


「だから並んでんだろ!」


「合理的判断だ。」


巨大AIの胸部でバチバチと火花が散り始める。

内部の思考群が圧縮され、

巨大な“何か”にまとまろうとしていた。


シグが叫ぶ。


「おい!!

 あいつ……まだ変形続けてるぞ!!

 殴られても進行するってどうなってんだ!!」


セレナが狼狽しながら端末を操作し続ける。


「融合率……っ、また上がってる……!!

 一瞬止まったけど、まだ中では続いてる!!

 アオトさんたちの攻撃で“外側”は止まっても……

 “中身”が進行してる!!」


レイが震える声で言う。


「そんなの……もう、どうしようも……!」


レオンが静かに言う。


「希望はある。

 ……あの二人が前にいる限りな。」


レオンさん……!」


巨大AIの胸部が“内部から”膨らみ、

赤光がひときわ強く輝いた。


アオトが叫ぶ。


「影!! 一気に打ち壊すぞ!!」


黒アオトの返答は速かった。


「了解。

 衝撃波を重ねる。

 お前のタイミングに合わせる。」


アオト「じゃあ行くぞ……!」


黒アオト「いつでも。」


アオトは拳を引く。

黒アオトも同じ距離で拳を引いた。


二つの拳が、

巨大正義の中心に向けて一直線に――


だがその瞬間。


巨大AIの胸部が、

“内側から弾け飛ぶように”破裂した。


レイが絶叫する。


「えっ!?

 なに!? なに出てくるの!?」


セレナの声が震えた。


「融合体……!

 まだ完成してないのに……!

 外装を壊して強制的に形を変えてる!!

 これ……っ、変身途中で自分から外に出るやつ!!」


アオトは舌打ちした。


「最悪だな……!」


巨大AIの胸部から、

赤い光子をまとった“腕のような構造”が伸び始める。


未完成。

形も目的も定まらない“途中の怪物”。


黒アオトが分析しながら淡々と告げる。


「アオト。

 あれは外装より弱い。

 未完成ゆえに装甲が存在しない。」


「つまり?」


黒アオト「殴り放題だ。」


アオトは笑った。


「そういうことなら――」


巨大AIから不完全な腕が振り下ろされる。


レオンが叫ぶ。


「アオト!! 下がれ!!」


アオトは一切下がらず、逆に踏み込む。


「下がるかよ!!!

 変身途中ってのは――」


拳を振り上げる。


「殴るのが礼儀だろうが!!!」


黒アオトが横で拳を構える。


「賛同する。

 前へ。」


二つの拳が、

未完成の巨大AIの腕へ叩き込まれた。


赤光が四散し、

巨大AIの半分だけ形成された骨格が崩れ落ちる。


レイが叫ぶ。


「本当に殴り勝ってるぅぅ!!??」


シグ「これ殴りで解決していいレベルか!!?」


ツバサが空から爆撃しながら叫ぶ。


「変身途中狙うって、悪役ってより攻略勢じゃないっすか!!」


アオトは笑いながら拳を構え直した。


「いいじゃねぇか。

 攻略できるなら殴る価値がある。」


黒アオトが静かに言う。


「アオト。

 融合率、まだ上昇している。

 外へ溢れた分が弱いだけで……本体は進行中だ。」


「わかってる。」


「なら、ここからが本番だ。」


巨大AIの内部から――

“完成しきっていないコア”が露出する。


赤い光が不規則に脈動し、

まるで心臓の形になりきれない“塊”がうねっていた。


レイが青ざめる。


「なんか……形になってない分、逆に怖い……!」


レオンが静かに言う。


「アオト。

 狙うなら……今だ。」


アオトはゆっくりと拳を握った。


「影。」


「準備完了だ。」


「合わせろ。」


「了解。」


二つの影が並ぶ。


未完成の“巨大正義の心臓”へ。


アオトは笑った。


「変身が終わるまで待つ気はねぇぞ。」


黒アオト「当然だ。」


「行くぞ影――叩き潰す!!」


二つの拳が、

赤く脈打つ“未完成の核”へ向かって走り出した。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【次回予告】


第81話


「悪役、巨大AIの“核心”を見てしまう」**


――「中身?

   ……想像より、ずっと人間くせぇじゃねぇか。」


ちょっと休憩。


「悪役、ヒーロー商品レビューを頼まれる」


──悪役に頼む仕事じゃねぇよ、ほんとに。



昼すぎの【カフェ・ヴィラン】。


コーヒー淹れながら、

「今日は静かでいいな」と思ったその瞬間。


ドアが――バンッ!


スーツ姿の若い男が転がり込んだ。


「た、助けてください!!」


「……注文してから死ね。」


「違うんです!! 依頼です!!」


ミレイが小声でささやく。


「マスター、また妙なの来ましたよ……?」


「ああ、コーヒーが冷める予兆だ。」



男は息を切らしながら名刺を出した。


《ヒーロー庁・市民支援課》 白峰


「ひ、ヒーロー向けの市民グッズ……

 その、安全チェックをお願いしたく……!」


「……なんで悪役に?」


「ヒーローは“優しい視点”なので……

 “辛口の視点”が欲しいと……」


「つまり悪口言えってことだな。」


「い、言い方……!」


ミレイが苦笑する。


「マスターに頼むなんてチャレンジャーですね……」



白峰がバッグを開けると、中には試作品が山ほど。


・子ども向け変身バッジ

・街頭パニック用の“正義ライト”

・ヒーロースーツ簡易修復スプレー

・応援用サイリウム(やたら光る)

・ヒーローの顔がプリントされたクッキー


……なんだこの地獄。


「全部チェックを……!

 不具合や危険性を教えていただければ……!」


「よし、悪役らしく正直に言う。」


白峰が青ざめる。



◆変身バッジ


ボタンを押すと――


 パアアアアッ(爆音)


ミレイ「音!! うるさ!!」


俺「これ……変身前に敵に気づかれるな。」


白峰「そ、そんな……子ども喜ぶかと……」


「子どもは耳もってかれるぞ。」



◆“正義ライト”


ONすると――

なぜか虹色に点滅しながら“正義!!”と叫ぶ。


ミレイ「これ……ただの自己主張ライトじゃ……?」


俺「夜道でやったら逆に刺されるぞ。」


白峰「うぅ……」



◆ヒーロースーツ修復スプレー


アオト「どれ……試すか。」


吹きかける。


……ブチィッ!!


ミレイ「マスター!? マント裂けましたよ!!」


「修復どころか破壊スプレーじゃねぇか。」


白峰「……設計ミスですね……」


「ミスってレベルじゃねぇ。」



◆ヒーロークッキー(顔入り)


ミレイがひとつ食べた。


ミレイ「……固い……」


俺「これ顎の筋トレにも使えそうだな。」


白峰「お、お子様向けなのに……?」


「歯が折れて泣く未来しか見えねぇ。」



全部レビューが終わったころ。


白峰は椅子に崩れ落ちていた。


「……こんな……ボロボロに……」


「安心しろ。改良の余地があるってだけだ。」


「フォローになってません!!」


ミレイがコーヒーを置く。


「でも、本音言ってもらえて助かったはずですよ。

 “悪役の目線”って、意外と正確ですから。」


白峰は弱々しくうなずく。


「……確かに……

 ヒーロー同士だと“優しい嘘”ばかりで……

 本当の危険性が誰も言ってくれなくて……」


俺はため息をつく。


「悪役は基本、全部“嫌な現実”から学ぶからな。

 嘘ついたら自分が死ぬ。」


「名言っぽいですけど、怖いです。」



白峰は深く頭を下げた。


「本当に……助かりました!

 またぜひ、監修を――」


「いや二度とやらねぇ。」


「えぇ!? お願いしますよ!!」


「クッキーで歯折れたら責任とれ。」


ミレイが吹き出した。


「また来てくださいね! 白峰さん!」


「来ます!! もう心の支えです!!!」


……だからテンション差がすごいんだよ。



店を出ていく白峰を見送りながら、俺は思う。


(ほんと……ヒーロー界は平和じゃねぇな)


ミレイがカップを拭きながら言う。


「……悪役さんって、案外“役に立ってる”と思いますよ?」


「立ちたくねぇんだけどな。」


俺はコーヒーを飲む。


苦い。

でも――悪役の昼にはこれがちょうどいい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ