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『職業:悪役(たまに正義の相談役)』   作者: よしお


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第77話 「悪役、反撃の最前線に立つ」



巨大AIの背部ユニットが破壊されたあと、

空気が一瞬だけ軽くなった。


だがその静寂は、

すぐに“異常な音”に塗りつぶされる。


ギギ……ギチチ……ッ!


巨大AIの関節が逆方向に折れ、

装甲の間から新たな光子ラインが走った。


セレナが息を呑む。


「フェーズ3……!?

 内部AIの“強制統合率”が跳ね上がってる……!」


レイが顔をしかめる。


「いやだよあんなのと戦うの……!」


アオトはニヤッと笑う。


「文句言う暇あるなら拳握れ。

 今が押し返すチャンスだ。」


巨大AIが地面に拳を叩きつけた。


ドォンッ!!!


地面が波打ち、

建物の残骸が縦に跳ねる。


シグが叫ぶ。


「散開!! クソ、攻撃パターンが変わってる!!」


レオンが小型銃を構えながら言う。


「アオト、前に出すぎるな。」


「出るに決まってんだろ。」


「……はぁ。言うと思った。」


レオンは短くため息をつきながらも、

アオトの両サイドに迷いなく立つ。


その瞬間、

巨大AIの両腕が“千切れたように見える速さ”で振り下ろされた。


ザシュッ!!


地面が縦に裂ける。


アオトが紙一重で飛び退き、

レオンがすかさず銃弾を撃ち込む。


カンッ!

またも、弾丸は巨大AIの関節のみに刺さる。


セレナが叫ぶ。


「効いてる!! レオンさん、可動制御が乱れてます!」


レオンは無表情で言う。


「見てろ。ここから止める。」


アオトが横目で笑う。


「お前、仕事モードだとほんと頼りになるな。」


「普段でも頼りになる。」


「いやそれは嘘だろ。」


「……否定されるとは思わなかった。」


掛け合いの最中、

巨大AIが腹部を開いた。


レイが叫ぶ。


「腹部コア、来ます!!

 直撃したら全員終わ……」


光が蓄積される――

その直後。


「スパークさん任せたっす!!」


上空からツバサの叫び。


風切り音を引き裂いて降りてきた光の軌跡が、

巨大AIの腹部コアへ一直線に突っ込む。


ツバサが蹴りを叩き込み、

内部の照準をわずかに逸らす。


レイがすぐさま雷撃を放った。


「合わせたよツバサ!!」


「ナイスっすスパークさーーん!!」


腹部コアの光は、

街の外壁方向へ逸れ、爆散。


アオトが叫ぶ。


「各隊! 一気に押し込め!!」


地上のヒーローたちが一斉に走り出す。


砲撃手が肩砲を撃ち込み、

スナイパーが補助装置を破壊し、

剣士が残った装甲を斬り上げる。


シグが言う。


「アオト! 今なら……!」


「ああ、分かってる!」


アオトは息を吸い込み、

全身の痛みを無視して前に躍り出た。


巨大AIの正面――

誰もが怖れて踏み込めなかった距離。


アオトは笑った。


「悪役が最前線に立つのは……

 こういう時だけだろうが。」


拳を構える。


巨大AIの赤いレンズがアオトだけを捉えた。


その光には、

怒りとも判断ともつかない、混沌の色があった。


アオトが呟く。


「迷ってんじゃねぇよ。

 選べないなら……殴られる側に落ちろ。」


巨大AIが吠え、

アオトも地面を蹴った。


正面衝突。


閃光。


戦場の空気が、一瞬だけ止まった。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


■次回予告


第78話「悪役、巨大正義の心臓へ殴り込む」


――「ここまで来たら止まれねぇだろ。

   悪役の拳ってのは、正義の核まで届いてナンボだ。」

ちょっと休憩。


「悪役、講習会で住民の“命の守り方”を教える」


──ヒーローより危険なのは、ヒーローから逃げ遅れた市民だ。



昼の【カフェ・ヴィラン】。

ミレイが郵便物を持ってきた。


「マスター、また変な依頼きてますよ!」


「いや、もう“また”って言うな。」


封筒には【町内安全委員会】の文字。

うん、すでに嫌な予感しかしない。


中を開くと――。


『最近の若いヒーローが危なっかしいため、

 住民向け“危険回避講習”を

 元・悪役の視点からお願いします』


「……なんで悪役が安全講習…?」


「“ヒーローより現実的で参考になる”って書いてます!」


「褒められてる気がしねぇ。」



会場に入ると――

町内のおばちゃん、おじちゃんがズラッと並んでいた。


ミレイが小声で聞く。


「ヒーローは来てないですね?」


「当たり前だろ。

 今日は“ヒーローから逃げる講習”なんだから。」


「……なるほど市民向け!」


俺は前に立つ。


「はい、元・悪役のブラック•アオトンこと本名アオトさんによる講習を始めまーす!

 皆さん拍手ー!」


パラパラ…(控えめ)



「まず、最近の若手ヒーローは――」


俺はホワイトボードに書く。


①走りながら考える(考えてない)

②技名を叫んでから攻撃(避けやすい)

③勝手に救助して満足する(周囲が瓦礫まみれ)


「……などの特徴がある。」


会場から一斉に頷きが起きた。


「わかる!」

「家の前で技名叫ばれた!」

「道路がえぐれた!」

「うちの犬、雷属性になった!」


「……最後のは別問題じゃねぇか?」



「で、ヒーローに遭遇したらどうするか。」


俺は指を一本立てた。


「まず“テンション高いタイプ”は近づくな。」


ミレイが補足する。


「ツバサさんみたいな?」


「あいつはまだマシだ。最悪なのは ‘新人でSNSに強いタイプ’ だ。」


会場から悲鳴。


「うちの前で毎日撮影してる子か!!!」

「うち孫が映り込んだ!!」


「……ご愁傷様。」



次に二本指。


「次、技名叫ぶタイプ。

 こいつらは“予告攻撃”してくれるから逃げやすい。」


でかいおじさんが手を挙げる。


「昨日、雷のやつに巻き込まれた!」


「あー、それ多分レイ。

 あいつは技名叫んでる時間が長いから、避ける余裕あるぞ。」


「いや、避けきれんかった!!」


「筋肉で衝撃吸ったんだな。強い。」



三本目を立てる。


「最後、強敵と戦ってるヒーローの近くへ行かない。

 “様子見で近寄る”が一番死ぬ。」


おばちゃんが震えながら言う。


「うちの旦那、動画撮りに行って吹っ飛びました……」


「そりゃ飛ぶわ。」


ミレイがフォローする。


「皆さん、命より再生数は安いですからね! ほんとに!」



そして講習の締め。


「要するに――

 ヒーローは正義だが、あんたら市民は守らんと死ぬ。

 だから“避ける技術”を覚えとけ。」


ミレイが笑う。


「悪役なのに市民を守ってるみたいですよ?」


「悪役は舞台に立つ役者だ。

 客席(市民)が死んだら芝居にならねぇ。」


会場から拍手が起きた。



講習後。

帰り道、ミレイが俺を見上げる。


「なんだか今日、マスター優しかったですね。」


「違う。現実を教えただけだ。」


「でも……ほんとに守ってましたよ?」


「……守ったんじゃねぇ。

 悪役が暴れられなくなるのが困るだけだ。」


「はいはい、ツンデレ悪役さん。」


「誰がツンデレだ。」


コーヒーの香りが夜風に溶けていった。


──ヒーローよりまず、自分の命を守れ。

 それが元・悪役からの、安全講習だ。


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