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『職業:悪役(たまに正義の相談役)』   作者: よしお


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第76話 「悪役、地獄に追加オプションをもらう」



巨大AIの腕が落ちる。

地面が悲鳴をあげるみたいに軋む。


俺たちは全員、覚悟していた。


だがその直前──

ボロボロのヒーローたちが放った攻撃によって、

その軌道はわずかにずれた。


ほんの数十センチ。

でも、死と生の境目には十分だった。


衝撃波だけで瓦礫が雨のように降り注ぎ、

俺は腕で顔をかばいながら叫んだ。


「全員、生きてっか!!」


返事の代わりに、怒号と荒い呼吸音が返ってくる。

レオンが剣を引き抜き、地面を蹴る。


「甘く見られんなよ、デカブツ!!」


巨大AIの足元へと駆け込む。

その足の着地だけでビルの骨格が揺れた。


レイはその直後を追い、傷ついた腕を押さえながら叫ぶ。


「レオンさん!! 下潜るの危なっ──」


ドゴォン!!


巨大AIが踏みつけ動作をしただけで衝撃が走り、

レイは吹き飛ばされかけたが、かろうじてスライドでかわした。


「っぶな!!

 なにその踏みつけ!! 地盤破壊ってレベルじゃない!!」


シグが横合いから射撃を叩き込み、低く唸る。


「こいつ、防御パターンが変わってる……

 バフのせいで“全部の部位”が武器になってやがる!」


巨大AIが上半身を反らせる。


いや──溜めている。


セレナが青ざめた。


「次の攻撃、広範囲です!!

 街ひとつ横に消し飛ぶ威力!!」


「軽く言うな!!!」


俺は拳を握り直す。


「全員、下がれ!! 遮蔽物でもなんでも使え!!」


でも現実は甘くない。


何も守るものが残っていない街で、

遮蔽物なんて“残骸”くらいしかない。


巨大AIが胸部を開き──


光が凝縮する。


吸い込まれるような静寂。

圧力が空気から消え、

代わりに死の気配だけが膨らんでいく。


ヒーローの一人が叫んだ。


「撃たせるな!!」


生き残りのヒーローたちが無茶苦茶に突撃する。

誰も息が整ってない。

誰も万全じゃない。

それでも行く。


俺も続く。


「死にたくなかったら前に出ろ!!

 悪役でもヒーローでも関係ねぇ!!」


レオンが跳ぶ。

折れかけの剣を両手で構え、巨大AIの胸部に斬撃を叩き込む。


ガギィン!!


火花の嵐。

剣が折れる。

レオンの体が吹き飛ぶ。


だが、巨大AIの蓄積光が一瞬だけ揺らいだ。


セレナが叫ぶ。


「いま!! その“揺れ”が止められる唯一のチャンス!!」


俺は胸の痛みを無視して、拳を構えた。


「悪役が殴る理由にしちゃ──でけぇわ、これ。」


地面を蹴る。


距離は遠い。

間に雑魚AIもいる。

息が続かない。

足が震える。


それでも──拳は届く距離にある。


ヒーローたちが次々と道を開く。

自分の身を盾にし、技を絞り、血を吐きながら。


「行けぇええ!!」


「悪役でもなんでも!! あんたなら届く!!」


「頼む……!! 誰かがやらなきゃ……!!」


その声を背に、俺は跳んだ。


巨大AIの胸部から溢れる白光が、

世界を焼き尽くす寸前だった。


「割り込ませてもらうぜ、正義の暴走。」


俺は拳を叩き込む。


ドッッッッッ!!!


胸部装甲にヒビ。

光が暴発し、巨大AIがわずかによろける。


着地した俺の足が折れそうになるが、耐えた。


レイが叫ぶ。


「効いてます!! 効果抜群ですよ!!」


セレナが端末を叩きながら続ける。


「でもダメ!!

 出力がまだ残ってます!!

 次の爆発、もう止められない!!」


巨大AIが暴走し始める。

全身のライトが赤く点滅し、

周囲のAIがさらに動きを加速させる。


俺の全身が汗で冷たくなる。


「……マジかよ。

 “今ので終わらない未来”を選んだのかよ、正義さんよ。」


レオンが折れた剣を捨て、構え直す。


「アオト、まだ立てるか?」


「立つしかねぇだろ。」


レイが既に震えながらも構えている。


「これ……勝てる絵が浮かばないですよ…!」


シグは血を流しながらも銃を構える。


「浮かばなくてもやるしかねぇ。

 浮かぶ頃には死んでる。」


セレナが小さく呟く。


「……怖い。

 でも……全部ここで終わるのも嫌……」


そして、背後では──

黒アオトが沈黙したまま、

薄く揺らぐレンズだけが戦場を映していた。


その揺らぎが、

“次に来る何か”を暗示しているようで、

俺の背筋が一瞬だけ冷たくなる。


だが──今は振り返る暇はない。


巨大AIが再び腕を構えた。


街が、夜が、命ごと押し潰す姿勢で。


俺は歯を食いしばり、拳を握る。


「来いよ。

 地獄の追加オプション……

 全部まとめて殴り返してやる。」


その瞬間──


巨大AIが咆哮し、戦場が再び崩れ落ちた。

戦場がまた揺れる。

その混乱の中、シグがレオンへ向かって黒い小型銃を投げた。


「レオン!! これ、持ってけ!!」


レオンは咄嗟に掴んだが──

手が止まった。


「……これ……」


握りしめた銃を見つめる。

そこへシグが短く言う。


「お前のだよ。

 昔ずっと使ってたやつ。

 ……死んだと思ってたから、形見みてぇに持ってた。」


レオンは、ほんの少し声を震わせた。


「……まだ、残ってたのか。」


「当たり前だろ。捨てられるわけねぇ。」


そのやり取りに、アオトは眉をひそめる。


「おい、なんで戦場で泣けるドラマ始まるんだよ。

 こっち今、地獄の真ん中なんだが?」


レイも叫ぶ。


「そうですよ!!

 なんでこのタイミングでエモい友情やってるんですか!!?」


シグはレオンをまじまじと見て言う。


「にしてもレオン──

 なんで今まで剣で戦ってた?

 銃メインなの忘れたわけじゃねぇよな?」


レオンは数秒沈黙した。


そして、小声で言った。


「…………銃、忘れてきた。」


アオト「……………………は?」


レオンは言い訳するように言葉を続ける。


「いや……急いで出たし……

 状況ぐちゃぐちゃだったし……

 言い出すタイミングもなかったし……」


アオトは絶叫した。


「いや言えよ!!

 “銃忘れた”って一番最初に言うべきだろ!!

 なんで戦闘始まってからずっと黙って剣で殴ってんだよ!!

 お前、思ってた以上に根性バグってるぞ!!」


レイも慌てて叫ぶ。


「言い出せなかったって何!?

 その理由で死にかける人初めて見たんですけど!!」


シグが頭抱えながら怒鳴る。


「アホかてめぇ!!!

 お前のメイン武器なかったらそりゃ戦いにくいだろ!!

 なんで黙ってんだ!!」


レオンは銃を握り、バツが悪そうに目をそらした。


「……悪い。

 なんか……言ったら怒られそうで。」


アオトのツッコミが炸裂する。


「怒るに決まってんだよ!!!

 命に関わる忘れ物すんな!!

 ランドセルじゃねぇんだぞ!!」


レイが半泣きになりながらさらに追撃。


「逆に言い出したほうが怒られませんよ!?

 忘れた上に黙って死にかけるほうが何倍も怒られます!!」


レオンはため息をつき、銃を構えて言った。


「……まぁ、見つかったならいいだろ。

 こっからはちゃんと戦う。」


アオト瞬間ツッコミ。


「“ちゃんと戦う”ってなんだよ!!

 じゃあ今まではなんだったんだよ!!」


シグはもう笑うしかない。


「……ほんと、なんで俺このチームにいるんだろ。」


そのやり取りを聞いていた周囲の生存ヒーローたちが、

思わず吹き出しながらも構え直す。


絶望の中で、奇妙に士気が上がった。


巨大AIが再び光を溜める。


セレナが叫ぶ。


「フェーズ移行!!

 さっきより出力高い!!」


アオトは拳を握り、悪役らしく口角を上げた。


「よし。銃も見つかったし、バカも元気そうだし──

 じゃあ地獄の続きを始めるか。」


レオンは愛用銃を握り、

さっきまでの間抜けさが嘘みたいに表情を引き締めた。


「……悪い。アオト。

 こっからは本気で行く。」


その声音は、

爆撃の中でもブレない“あのレオン”のものだった。


アオトは鼻で笑う。


「最初からそうしろよ。

 ……まぁ戻ったならいい。」


レイが肩で息をしながら言う。


「ほんとですよ……

 急に“重力が増えた”みたいな顔しますねレオンさん……」


シグが苦笑交じりに言う。


「これが本来の戦闘スタイルだ。

 さっきまでのは……まぁ、あれだ。事故だ。」


レオンは短くだけ返す。


「悪かった。」


その一言に、

シグもアオトもレイも何も返せなかった。


レオンの空気がもう、

“戦闘用の右腕”に切り替わっていたからだ。


巨大AIが咆哮し、光が収束する。


セレナが端末を睨み、声を震わせる。


「来ます……!

 今度のは街ひとつ消える規模……!」


アオトは拳を握り、低く呟く。


「上等だ。

 撃ってみろよ、正義の暴走。」


レオンが一歩踏み出した。

銃口が迷いなく巨大AIの中心を捉える。


「アオト、合わせろ。

 押し込む。」


「当たり前だ。」


レイも構え直す。


「行きます……! 覚悟決めますよ!」


シグもマガジンを入れ替えて言う。


「さぁ暴れろレオン。久しぶりの銃だ


レオンが愛用の小型銃を握り、

その目が鋭く細められた。


巨大AIが全身に光を集め、

街ごと焼き払う準備をしている。


レオンは一歩、前へ。


セレナが驚きの声を上げた。


「レオンさん!?

 ハンドガンじゃ……あの装甲は抜けません!!」


レオンは首を横に振る。


「抜く必要はない。

 “中身に届けばいい”。」


アオトが即座にツッコむ。


「届く前に踏まれるだろ!!」


レオンは無視して銃を構えた。

その構えは、剣を持っていたさっきとはまるで別物だ。

迷いがない。無駄もない。

“狙った場所だけ壊すための姿勢”だった。


巨大AIが胸部の光を収束する。


レオンは狙いをつけ、静かに呼吸した。


カン、と小さな音。

小型銃とは思えないほど“重い”響きが夜空に刺さった。


弾丸は巨大AIの胸装甲を貫いたわけじゃない。

だが──装甲パネルと内部制御の境界線を正確に捉えた。


セレナが目を見開く。


「制御ライン……!

 出力の伝達が一瞬止まった!!」


巨大AIの胸部の光が、確かに揺れた。


アオトが驚く。


「おい……

 今のショット、どうなってんだよ?」


シグが代わりに説明する。


「レオンの銃は火力じゃねぇ。

 “機械の急所”だけを正確に撃ち抜くための武器だ。

 戦闘スタイルを忘れてたのは馬鹿だが……

 本気のレオンは、これだ。」


レオンは次の弾を装填し、

さらに横のセンサー部へ撃ち込む。


パシィッ!


弾丸が光学センサーを曇らせ、

巨大AIの照準がわずかに逸れる。


レイが息を呑む。


「……すご……

 火力じゃなくて……動きを“狂わせてる”……」


アオトが叫ぶ。


「いいぞレオン!!

 その調子でデカブツを誤作動まみれにしてやれ!!」


レオンは低く、短く答えた。


「任せろ。」


巨大AIの肩部シリンダーへ、

股関節の制御球へ、

バックユニットの冷却孔へ──


小型銃の弾丸が、

巨大兵器の“神経”を次々と撃ち抜いていく。


動ける部分が少しずつ制限され、

巨大AIの攻撃精度が下がっていく。


セレナが感嘆して呟いた。


「……これが……

 レオンさんの本当の戦闘……」


アオトがニヤリと笑う。


「ようやく本編だな。」


そして──

巨大AIは新たな攻撃フェーズへ移行し、

空へ向けて大きく背部ユニットを開いた。


セレナが叫ぶ。


「上空広域攻撃!!

  あれ撃たれたら、このブロック……全部吹き飛びます!!」


レイが息をのむ。


「もう……止めようが……!」


アオトは空を見上げ、ニッと笑った


「いや、あいつがいる。」


レイが驚きながら尋ねる。


「誰のことです?」


アオトが指を上空へ向ける。


「うちの“元バイト”だよ。」


ドンッ!!!


夜空が裂け、光が走る。

続いて 複数の影 。


先頭で着地したのは、

金髪を逆光で輝かせた男。


「お待たせしたっす!!

 アオトさんが死にかけてるって聞いたんで、

 全速力で飛んできました!!」


「誰だよそんなデマ流したのは。」


ツバサは爽やか笑顔で即返す。


「いや現場見たら本当っすね!ヤバいっす!!」


「お前な……敬語で心配するな、腹立つ。」


「えへへっ、でも生きてて良かったっす!」



その後ろには、

ツバサに引っ張られてきたヒーローたちが次々と着地。


全員、破損したスーツを身にまといながらも戦える状態。


レイは驚いて声を上げる。


「ツバサ……! こんな強そうな人たちまで連れて……!」


ツバサは笑顔のまま答える。


「スパークさんの分まで頑張るっすけど、

 今日はまずアオトさん優先っす!」


「え、えぇ!? 優先順位逆じゃ……」


「いや正しい。間違ってねぇ。」


「ですよねっす!!」


「“っす”は減らせ。」


「了解っす!!」


巨大AIの背部ユニットが光を放つ。


ツバサの表情が一瞬だけ締まる。


「……背中のアレ、落とさないと全滅っすね。」


「分かってんなら早く飛べ。」


ツバサは指を鳴らす。


「了解っす! ──全員、行くっす!!

 あの背中、まとめてぶっ壊す!!」


精鋭たちが一斉に構える。


ツバサが号令をかける。


「撃てえええ!!」


轟音。

砲撃・光刃・風圧・スナイプ・速度衝撃が集中し、

巨大AIの背部ユニットを直撃する。


ドゴォォォォン!!!


光が千切れ、ユニットが破損。

巨大AIの溜めていた広域攻撃が空へ霧散する。


「広域攻撃……無効化!! 成功です!!」


レイが叫ぶ。


「……すげぇ……ツバサ……!」


ツバサは親指を立てて笑う。


「アオトさんの前で格好悪いとこ見せられないっすから!」


「うるせぇ。早く空押さえて来い。」


「了解っす!!」


ツバサは再び空へ飛び上がり、

戦場は明らかに“流れが変わった”。


――だか、地獄は、終わりじゃない。

むしろここからが“本当の地獄”だ。


アオトは血を拭い、

崩れゆく街の中心で、ふっと笑う。


「上等だ。

 流れが変わったなら……こっから押し返すだけだ。」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━

次回予告


第77話「悪役、反撃の最前線に立つ」


――「流れが変わった?

  なら“悪役”が一番前に出ないと、示しがつかねぇだろ。」


ちょっと休憩。



 「悪役、ヒーロー図書館に迷い込む」



──正義の歴史ほど、嘘で厚く塗られてる棚はない。



昼の【カフェ・ヴィラン】。


ミレイが紙袋を抱えて帰ってきた。


「アオトさん! すごいものもらいました!!」


「ろくなものじゃねぇだろ。」


「これ! 図書館の“特別パス”です!!」


差し出されたカードには

《ヒーロー中央アーカイブ・臨時入館証》

と書かれていた。


「……どこで拾った。」


「拾ってないです! お客さんが“間違えたからあげる”って!」


「間違えて渡すもんじゃねぇだろこれ。」


ミレイはキラキラした目で言う。


「せっかくだから行きません!? ねっ行きましょ!!」


「断る。」


「じゃあ私ひとりで行きますね!」


……悪役より強引だな、こいつ。


「危ねぇから俺も行く。ほら行くぞ。」


「やった!!」



ヒーロー中央アーカイブ。

巨大な施設に警備ドローンが飛び交う場所。


入口のゲートにカードを通すと――


ピッ。


《入館許可》


俺とミレイは顔を見合わせた。


「……通ったぞ。」


「すごい……本当に入れちゃいましたよ!?」


「もうここが一番怖ぇな。」



中は、静寂そのものだった。


高い棚が並び、

ヒーローの歴史・功績・事件・記録ファイルが無数に並ぶ。


ミレイは興奮状態だ。


「アオトさん! これ全部ヒーローの資料ですよ!?」


「当たり前だ。ヒーロー図書館だぞ。」


「なんでそんな落ち着いてるんですか!」


「落ち着かねぇと捕まるだろ。」


「確かに!!」



歩いていると、

一つの棚が目に止まった。


《危険行動記録:閲覧制限》


ミレイが震える。


「こ、これ……なんかヤバいやつじゃ……」


「“危険行動”って書いてあるだろ。ヤバいに決まってる。」


「開けちゃダメですよね?」


「開けるなよ。」


「はい! 絶対開けません!」


……


……


……ガラッ。


「開けるなって言ったよな?」


「ごめんなさい!! 好奇心が……!!」


ファイルを開くと――

ヒーローたちの黒歴史が並んでいた。


・新人ヒーロー、巨大広告に激突

・ベテランヒーロー、子どもに“かっこ悪い”と言われ号泣

・人気ヒーロー、SNSの裏垢流出危機


ミレイが吹き出す。


「ただの恥ずかしい記録じゃないですか!!」


「だから閲覧制限なんだよ。傷つくからだ。」



さらに奥へ。


すると――

一冊だけ色の違うファイルがあった。


表紙には、こう書かれていた。


《未分類敵性存在:黒の同盟》


俺の足が止まった。


ミレイが小さくつぶやく。


「……マスター、それって……」


「触るな。面倒だ。」


そう言ったのに、

勝手にファイルが“ピッ”と開いた。


中には――

昔の俺のシルエットがあった。


ミレイが息を呑む。


「……若い……!

 ていうか髪……今より尖ってますよマスター!!」


「うるせぇ。若気の至りだ。」


さらに資料を読むと――


《ブラックアオトン:危険度A

 特徴:皮肉/煽り/戦闘時の性格悪さが極めて高い》


「性格悪さってなんだよ。」


ミレイが笑いを堪えながら言う。


「……でも、強かったんですね。」


「昔話だ。忘れろ。」


「忘れられるわけないじゃないですか。」


……


一瞬だけ――胸が痛んだ。



その時。


背後で警報が鳴った。


《無許可閲覧区域に侵入者!》


ミレイ「ぎゃーーー!!」


俺「叫ぶな! 余計悪化する!」


ドローンがこちらへ向かってくる。


逃げるしかねぇ。



館内を走りながら、ミレイが叫ぶ。


「アオトさんもっと速く!!」


「悪役は逃げ足が命だ、任せろ!」


「なんの自慢ですか!!」


出口が近づく。


ギリギリでゲートを飛び越え――


俺たちは外へ転がり出た。


警報は止まり、静寂が戻る。


ミレイは地面で息を整えた。


「……はぁ……

 図書館って……もっと静かだと思ってました……」


「静かだったら幽霊より怖ぇわ。」



帰り道。


ミレイがぽつりと聞いた。


「さっきの、黒の同盟時代の……アオトさん。」


「忘れろ。」


「……でも、ちょっとだけ……

 かっこよかったです。」


「褒めるな。照れる。」


「照れてます?」


「照れてねぇ!!」



──正義の図書館は、

過去の悪まで保存してる。


だから俺の黒歴史も、

たぶんどっかの棚でホコリかぶってるんだろう。


まったく、厄介だ。


─ ─



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