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『職業:悪役(たまに正義の相談役)』   作者: よしお


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第73話 「悪役、壊れた正義の群れを蹴散らす」



鉄の雨が、止まらない。


降り注ぐAIの群れが地面に突き刺さるたび、

破片と火花が弾け、世界がノイズで満たされていく。


俺は拳を振り抜き、一体のコアを空に吹き飛ばした。


「雑だな……。

 昔の正義のほうが、まだ“形”があったぜ。」


レオンが横で刀を払う。


「形なんざ、今はどうでもいいだろ。

 当たらなきゃ死ぬだけだ。」


「ほらな。

 そういう言い方が、どう聞いても悪役なんだよ。」


「本職だからな。」


「今ヒーローの列にいるくせに何言ってんだ。」


「“体験中”って言ってんだろ。」


二人の軽口を遮るように、雷光が横切る。


「アオトさん!

 くそっ、数が減らないっす!!」


レイが連撃でAIを弾き飛ばすたび、

その奥からさらに別の群れが湧く。


「無限湧き……?

 これもうイベントじゃなくて拷問ですよ……!」


「安心しろ。」

俺は肩を回す。


「拷問は慣れてる。」


「安心できねぇ!!」


後方から銃声。

シグが次々とドローンを撃ち抜く。


「レオン! 前のやつ下げろ!!

 アオト! 右側!

 そこの若いの! 斜め上!!」


「俺、若いの固定ですか!?」


「覚えられる名前が一個もねぇんだよ!!」


レオンが眉をひそめる。


「相変わらず脳みそが銃火器だな、お前。」


「褒めんな。照れる。」


「褒めてねぇよ。」



その少し後方。

セレナはAIの動作を“目”で読み取りながら叫ぶ。


「攻撃パターンが……崩壊しています!

 制御されているというより――

 “壊れたまま進んでる”動き……!」


「つまりどういうことだ、セレナ。」

レオンが問う。


「意思も、目的も……揺らいでます。

 まるで——“誰かのノイズ”をなぞってるみたいに。」


「誰か?」

俺は嫌な予感がして、背後を見る。


黒アオトが拳を握りしめ、

不安定なレンズの光を宿していた。


その周囲だけ、AIの動きが――くぐもっていた。


レイが青ざめる。


「アオトさん……!

 さっきから黒いアオトさんの近く、

 敵の軌道ぐにゃってません……!?」


「見りゃわかる。」


黒アオトは、かすれた声で呟く。


『……わたし……

 わたしの……波形……に……

 反応……して……いる……?』


セレナが鋭く息を呑む。


「……なるほど……!

 あのAIたち……黒アオトさんを

 “本来の信号源” として扱ってる……!」


シグが叫ぶ。


「つまりどうなる!?」


「――黒アオトさんが“迷えば迷うほど”、

 AIは動きが乱れて強くなる!」


レイが叫び声を上げる。


「最悪じゃん!!」


レオンが刀を強く握る。


「じゃあ黒アオトが決めねぇ限り、この地獄は終わらねぇってことか。」


俺は黒アオトに近づき、言った。


「なぁ影。

 お前の迷いが、あいつらを暴れさせてんだとよ。」


黒アオトは震える拳を見つめる。


『……わたし……は……

 “悪”なのか……

 “なん”なのか……

 わから……ない……』


「知らねぇよ。

 そんなの俺だってまだ結論出てねぇ。」


『……アオト……?』


俺はAIの群れに向き直り、言い放つ。


「迷った時はな――

 “殴られたくない奴じゃなくて、

 殴って後悔しないほう”を選べ。」


黒アオトのレンズが揺らめき、

炎の光を映した。


『……殴って……

 後悔……しない……?』


「そうだ。

 それが悪役の正解だ。」


ほんの短い静寂。

次の瞬間――


黒アオトが前へ一歩踏み出した。


レイが叫ぶ。


「よっしゃ!! きた!!

 今めっちゃ目つき良かったですよっ!!」


セレナも息をのむ。


「……自分の意思で動いた……!」


シグが銃口を向け、怒鳴る。


「おいお前ら!

 “黒アオトが選ぶまで”一秒でも稼げ!!

 敵が荒ぶってんぞ!!」


「言われなくても!」

俺は拳を構える。


鉄の雨が再び落ちる。

炎が走る。

雷が飛ぶ。

銃火が夜を裂く。


 肩を並べて立つ戦場は、

 確かに何かを変え始めていた。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


次回予告


第74話「悪役、影の答えを待ちながら殴り続ける」

――「決めるのはお前だ。

   俺たちはその間ずっと、前で殴っといてやる。」


ちょっと休憩。



「悪役、幽霊よりヒーローの方が怖いと思う」


──怪奇現象の9割は、人間のせいだ。



夜の【カフェ・ヴィラン】。


ミレイが閉店作業をしていた時、

窓の外から誰かがこそこそ覗いていた。


「ア、アオトさんっ! なんか……なんかいる!!」


「いるだろ。夜だし。」


「そういう雑な返しじゃなくて!!」


よく見れば――

若いヒーローが一人、

制服(寮服)を着たまま固まっていた。


扉が開く。


「す、すみません……夜分に……!」


「声でかい。入れ。」


ヒーローは震えながら名乗った。


「ぼ、僕……ヒーロー養成寮の見習いで……

 寮に……出るんです。幽霊が……」


ミレイが青ざめる。


「幽霊……!? 無理です怖い!!」


「バイトが先に怯えてどうすんだ。」



話を聞くと――


・寮の廊下で足音がする

・深夜にロッカーが勝手に開く

・トレーニングルームで物が動く

・ヒーロー科の子たちは恐怖で寝不足


という、まあ幽霊テンプレ。


俺は肩をすくめた。


「で、なぜ悪役のいる店に来た?」


「だ、だって……ヒーローだと、幽霊に正義パンチしちゃうから……」


「判断力ゼロかお前ら。」


ミレイが手を挙げる。


「アオトさん、行ってあげましょうよ!」


「なんでだよ。」


「困ってる人は助けないと!」


「ヒーローみたいなこと言うな。」



夜中。

ヒーロー寮へ。


やたらピカピカな最新設備の建物。

正面のヒーロー像がまるで自分を褒めてほしそうな顔で立っている。


(……相変わらず自己顕示の塊だな、ヒーロー寮)


寮長に案内され、廊下へ。


「ここで足音がすると……」


廊下の端っこで、

ミレイが俺のマントをぎゅっと掴む。


「ひ、ひとりにしないでください……」


「お前、幽霊より元悪役の俺を怖がれ。」


「それはそれ、これはこれです!」



しばらく調べていると、

ロッカーがガタッと揺れた。


ミレイ「ギャーーー!!」


俺「叫ぶな。相手がビビる。」


恐る恐るロッカーを開けると――


中で少年ヒーローが座り込んでいた。


「あっ……」


ミレイ「人!!?」


俺「……お前が幽霊か?」


「す、すみません……

 ぼく、夜に練習しないと追いつけなくて……

 でも怒られるから隠れて……」


ああ、そういうことだ。


「じゃあ足音はお前か。」


「はい……」


「ロッカーが開くのもお前?」


「……僕が居眠りして、ぶつかって……」


「トレーニングルームの物音は?」


「そ、それも僕が……ひとりで練習して……」


ミレイ「全部あなたじゃないですか!!」



寮長は額を押さえた。


「……やっぱり君か、カイト……」


少年は涙目でうつむく。


「追試続きで……落ちこぼれって言われて……

 だから、夜に……誰にも見られず……」


俺はしゃがんで目線を合わせる。


「……幽霊じゃねぇ。ただの努力馬鹿だ。」


ミレイは目を輝かせた。


「すっごい良い子じゃないですか!!」


「しかしその努力、方向が悪い。」


「え……」


俺はロッカーを閉めながら言う。


「限界超えて壊れたら、ヒーローにも悪役にもなれねぇ。

 せめて――“味方”がいる前で無茶しろ。」


寮長もため息をついて肩を叩く。


「明日からは私が見てやる。夜練は禁止だ。」


カイトは泣きそうな顔で頷いた。



帰り道。


ミレイが笑った。


「アオトさん、今日めっちゃ優しかったですね!」


「優しくねぇよ。騒動の正体がしょーもなかっただけだ。」


「でも助けましたよね。」


「……幽霊より、ヒーローの方がよっぽど怖い。」


「わかる気がします!!」



──悪役が夜に寮へ行くと、

だいたい騒動の9割が解決する。


残り1割は、まあ……ヒーローのせいだ


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