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『職業:悪役(たまに正義の相談役)』   作者: よしお


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第72話 「悪役、外野の乱入で地獄の大乱戦」



──空が、悲鳴をあげて割れた。


制御塔上空から、黒い鉄の滝が降る。

“正義”の亡霊みたいなAIドローンが、

戦場へ向けて自殺みたいに落下してくる。


レイが青ざめて叫ぶ。


「多すぎます!!

 え、これ天の川とかじゃないっすよね!? 物量っすよね!?」


「物量に決まってんだろ!」

レオンが刀を構えつつ怒鳴る。


俺は息を吐いた。


「コピーの俺と殴り合う予定だったのに、

 外野が空気読まねぇな。」


黒アオトは、ノイズの混じる声で答える。


『外部脅威……多数……

 優先順位……決定……不能……』


「じゃあ殴りやすい奴から殴れ。

 悪役の基礎だ。」


『……殴り……やすい……?』


判断できず、影は立ち尽くしたままだ。


──そのとき。


空を裂く銃声。

AIが十数体、まとめて爆ぜた。


黒いコートの男が、瓦礫に着地する。


レオンが目を見開く。


「……シグ?」


男は俺とレオンを見た瞬間、

息を呑んだまま固まった。


「……おい。

 なんで……お前ら……生きて……」


レーザーが横をかすめ、地面が爆ぜる。


俺は叫ぶ。


「感動の再会はあとだ!」


シグは舌打ちし、銃を構え直す。


「いや待てって! 本当にお前か!?」


「あとっつってんだろ!!」


レオンも怒鳴る。


「生き残ってから全部聞け!!」


AIの第二波が、音の壁になって押し寄せる。



その瞬間――

淡い青のサークルが大地に展開し、

降下してきたAIの動きが一瞬だけ鈍る。


「間に合いました。」


白コートの裾を揺らしながら、セレナが駆け込んできた。


レイが叫ぶ。


「セレナさん!! 後ろ危ないっす!!」


セレナは反射的に振り返る。

AIが一直線に突っ込んできていた。


「……っ!」


咄嗟に身をひねって避け、

足元の破片を投げつけて敵のセンサーを乱す。

その一瞬の隙にレイの雷撃が突き刺さった。


「ナイスですっ!」


「ありがとうございます。」


セレナは短く礼を返し――

ふと、周囲のノイズの中に 妙な“生体に似た信号波” を感じ取る。


「……今の反応……?

 機械の波形じゃない……?」


視線を向けると、

瓦礫の陰に半壊したAIらしき個体が倒れていた。


(あれ……?

 他のAIと“周波数”が違う……)


戦闘の最中なのに、

その信号だけが“まるで心拍のように揺れて”いた。


セレナは小さく呟く。


「……この個体……何?」


理由もわからないまま、

彼女は “異常な反応源”としてヴェールのほうへ走る。


到着して、ようやく正体を目で確認する


「……旧型AIの型番。

 “Vシリーズ”…? もう量産されていないはず……。

 こんな個体が、まだ……」


俺は皮肉を挟む。


「初見でよくそこまで分かるな。」


セレナは視線をヴェールから外さず、

落ち着いた声で答えた。


「古い機体には、“古い動き”が残るんです。

 ……アオトさんみたいに。」


俺はほんの一瞬だけ固まる。


「おい待て、今のはどういう意味だ。」


「分析です。」


「分析で悪口言うな。」


セレナはヴェールの装甲に手を当てる。

初見の動きだが、技術者の目は鋭い。


「損傷……大きいけど、コアは生きてる……。

 通信層、今安定化させます。」


『受信……安定……

 支援……完了……』


「よし……!」


ヴェールの安堵とセレナの呼吸が、

一瞬だけ戦場に柔らかさを落とす。


──しかし、次の瞬間また鉄の雨が降った。


シグが怒鳴る。


「おい若いの! 雷撃! 前だ!!

 白コートの女は後ろで解析続けろ!!

 レオンは俺の横! アオトは殴れ!!」


レイがツッコむ。


「誰が若いのすか!! 名前覚えてくださいよ!!」


セレナも眉をひそめる。


「せめて“白コートの女”はやめてください。」


シグは撃ちながら返す。


「名前知らねぇんだよ!!

 文句あんなら生き残ってから言え!!」


「それ正論なんすよね!!」

レイが雷撃を放つ。



黒アオトは、まだぎこちないままだった。


『……行動……選択……

 脅威……多数……

 “立つ位置”……決定……不能……』


レイが横目で叫ぶ。


「黒いアオトさん!! さっきから迷ってばっかりっす!

 もう動かねぇと死ぬっすよ!!」


俺も振り返る。


「おい影。

 悩む暇あったら殴れ。

 判断なんざ、後で後悔するときにやりゃいい。」


黒アオトの拳が、かすかに震える。


『……脅威……

 殴る……?』


「ああ。

 それで充分だ。」


黒アオトは、一歩踏み出した。


レイが目を見開く。


「おお……!

 今、自分で“行く”って判断したっす!!」


セレナが目を見開き、

端末の数値を追いながら息を呑む。


「……今の、学習反応……?

 行動選択ルートが……“自発的に”動いた……?」


シグが後ろから怒鳴る。


「感動はあとでやれ!! 前見ろ!!」


「了解!!」

俺は笑い、AIの群れへ突っ込んだ。


黒アオトも同じ方向へ走り出す。


レイの雷撃。

レオンの斬撃。

シグの弾丸。

セレナの解析。

壊れた正義の雨。


黒の同盟はもう存在しない。


だが――

“生き残った3人”と“その影”が

 再び肩を並べて戦っている

その光景は、確かに残火だった。



次回予告


第73話「悪役、壊れた正義の群れを蹴散らす」

――「コピーでも本物でもいい。殴れる腕が残ってりゃ十分だ。」


ちょっと休憩。



「悪役、グレー倉庫で仕入れる


──正義が増えると、物の流れはグレーになる。



「アオトさん、コーヒー豆ゼロです!!」


ミレイが袋を振って叫んだ。

粉一つ出てこない。


「ほら見てください! 底が見えてる!」


「見せるな。縁起悪い。」


「でも、このままだとお店……」


「潰れねぇよ。仕入れに行くだけだ。」


ミレイは首をかしげる。


「普通の店じゃダメなんですか?」


「普通じゃ手に入らねぇ豆があるんだよ。

 悪役……引退者専用ルートがな。」


「それ、もしかして怒られるやつじゃ……?」


「怒られるのは大抵ミレイの声量だ。」


「ひどくないですか!?」



向かった先は、

表向きは“物流倉庫街”。

ただし、看板だけ立派で中身はグレー。


ヒーローも役所も、

“面倒だから”という理由で見て見ぬふりの地域だ。


倉庫のシャッターをノックすると、

低い声が返ってきた。


「合言葉は?」


「……悪役の朝は苦ぇから、だ。」


シャッターがゆっくり開く。


ミレイ「絶対いま作ったでしょ合言葉!!」


中にいたのは――

がっしりした体に、落ち着いたスーツ。

片方の眉に古い傷。


元・悪役のバイヤー、

“ガイ”(引退後は合法寄りの商売人)。


「よぉ、アオトン。まだ店続いてんのか。」


「そっちこそ。まだ捕まってねぇのか。」


「合法すれすれでやってんだよ。悪役は線引きに強ぇ。」


ミレイが小声で俺に寄ってくる。


「線引きに強いって何ですか……?」


「悪行と合法の境目を歩くのがプロだったからな。」


「誇らしげに言わないでください!」



ガイが奥の棚から

黒い袋を取り出した。


「お前の好きな深煎り“ダーク・インモラル”。

 正規ルートじゃ流通してねぇ特選豆だ。」


ミレイが震えながら袋に触る。


「え、この……真っ黒な見た目何……」


「罪悪感の色だ。」


「そんな煎り方ある!?」


ガイは冗談でもなく頷いた。


「飲むと、少しだけ悪役に戻りたくなる味だ。」


「売るなそんなもん。」



値段交渉に入る。


「1袋2万円だ。」


「……高いな。」


「手間がかかってんだよ。ヒーロー監視網の裏を抜けるのは大変なんだ。」


俺は袋をひっくり返し、豆をつまむ。


「豆が軽くなってる。」


「最近のやつは軽量化ブームなんだよ。」


「手抜きって言え。」


ガイが額を押さえる。


「……1万6千円。」


「1万。」


「お前ほんと値切り方だけは現役の悪役だな!」


「交渉は悪役のたしなみだ。」


「悪の美学みたいに言わないでください!!」


結局、

ガイが折れた。


「……ったくよ。1万3千円でどうだ。」


「いい線だ。」


「勝手に満足するな!」



帰り道。


ミレイは袋を抱えて上機嫌だ。


「これで店続けられますね!」


「まあな。」


「マスターって、悪役っぽいようで生活感ありますよね。」


「ほっとけ。」


「だって仕入れですよ? 悪役の仕入れってもっと……こう……変な儀式とかあるのかと思ったのに!」


「そこまでして豆は買わねぇよ。」



倉庫街の端を抜けると、

ヒーローの見回りがゆっくり歩いていた。


ミレイが焦る。


「マスター、見つかったらやばいんじゃ……?」


「大丈夫だ。合法すれすれだ。」


「安心できない!!」



──悪役の店を守るためなら、

グレーくらい踏むもんだ。


次の客のために、今日も豆を挽く。


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