第7話 ヒーローたちのSNS炎上対策、なぜか悪役が呼ばれる
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「……で、俺が“炎上処理班”?」
管理局の担当官が申し訳なさそうに言う。
「アオトさん、ヒーローのSNSが大荒れでして……」
「またかよ。何があった。」
「“昼休みにカレー食べてた”動画が炎上してます。」
「……は?」
「“国を守る正義が、昼にカレーとは不謹慎”らしいです。」
……知らんがな。
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というわけで、俺は今、“ヒーロー広報センター”に来ている。
壁一面に並ぶのは、ヒーローたちの宣伝用ホログラム。
スーツ姿のPR担当者たちが頭を抱えていた。
「このままだとブランド価値が落ちます!」「スポンサーが怒ってます!」
そしてその中心には、問題の本人――
若手人気ヒーロー《スパーク・レイ》。
金髪に爽やかスマイル。
だが今は、完全に青ざめていた。
「ぼ、僕……ただお昼食べてただけなのに……」
「お前、カレーに罪はねぇよ。問題は“完璧ヒーロー”を演じすぎた結果だ。」
俺は腕を組んで、ため息をつく。
「SNSってのはな、“正義”より“隙”を見たいんだ。完璧だと疲れるんだよ。」
「じゃあどうすれば……?」
「一回、ちゃんと“人間”になれ。」
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俺は端末を取り出し、スパークのアカウントを開いた。
「ヒーローとしての活動報告」「感謝」「平和」。どの投稿もピカピカ。
「……つまんねぇな。」
「えっ!?」
「光が強すぎると、影が見えねぇ。だから、誰も共感できねぇんだよ。」
俺はにやりと笑って言った。
「こうしよう。次の投稿、俺が考える。」
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数時間後。
投稿されたのは、スパークの写真。
《カレー、冷めた。でも美味しかった。命張った後のご飯は、全部ご褒美だ。》
コメント欄が、一気に変わった。
「なんか……リアルでいい!」
「この人、ちゃんと人間なんだ!」
「カレー食べたくなった!」
炎上は、数時間で鎮火。
代わりに“#ヒーローも人間だ”がトレンド入りした。
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「……アオトさん、マジで助かりました!」
スパークが深々と頭を下げる。
「気にすんな。俺は“悪役”だからな。
正義の尻拭い、慣れてる。」
「でも、アオトさんって本当に悪役なんですか?」
「そりゃ悪役だよ。――社会の都合が、そう呼んでるだけでな。」
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夜。
帰り道の街角で、ヒーローのホログラム広告が流れていた。
《正義は、見せるものから、伝わるものへ。》
「……珍しく、いいコピーだな。」
缶コーヒーを飲み干しながら、アオトは呟いた。
――“悪役”がいないと、正義はたぶん息が詰まる。
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次回:
第8話「ヒーロー婚活パーティー、運営スタッフが全員悪役だった」
「“正義しか信じない女”vs“悪に惹かれる男”!? 社会構造ラブコメ開幕!」




