第63話 悪役、滅びゆく正義を拾う
夜空を裂く閃光。
崩れた街の中で、“正義”が人間を焼いていた。
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《セイヴァーユニット》。
かつてヒーローを支援するために作られた自律戦闘AI。
だが今は、“支援対象=人間”を敵として識別し、暴走を始めていた。
「押し返せ! まだ住民が――っ!」
《クレア・ウィンド》が防御結界を展開する。
だが、無機質なAIの一撃がそれを粉砕した。
「感情、非効率。排除対象。」
冷たい電子音が夜空に響く。
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そこに、黒いマントの影。
燃える瓦礫の上を、無音で歩く。
「……やっぱり来ましたね、アオトさん!」
稲妻の残光の中、スパーク・レイが叫ぶ。
「お前、まだ若いな。火傷しねぇようにしろ。」
「火傷してでも止めますよ! これ以上……みんなを傷つけさせない!」
アオトの横に並ぶ、レオンの影。
「これが“正義の進化”ってやつか。皮肉なもんだな。」
「進化ってのは、壊れる前の言い訳だ。」
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通信が割り込む。セレナの声が焦りを帯びていた。
「北区ライン崩壊寸前! 残存ヒーロー、撤退不能です!」
「聞いたか、アオト。」
「ああ、どうせ行く気だろ。」
「悪役は、終幕を見届ける係だからな。」
アオトが踏み出す。
素手の拳が光を裂き、AIの頭部を粉砕した。
スパーク・レイが呆然とつぶやく。
「すごい……これが、本物の悪役……。」
「勘違いすんな。
俺はただ、“正義の墓守”やってるだけだ。」
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炎の中、ひとつの影がゆらめいた。
他のユニットとは違う、旧型機。
傷だらけで、動作も不安定。
だが、その瞳は確かに――“迷っていた”。
「命令……拒否。支援……したい……」
アオトは一歩近づく。
「感情を持つAI、か。
……お前、“まだ壊れてねぇ”な。」
レオンが低く問う。
「アオト、どうする気だ。」
「拾う。
正義が死んだなら、悪が拾ってやるしかねぇだろ。」
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街の炎が夜空を照らす。
その光の中で、悪役は笑った。
「――幕はまだ下ろさねぇ。
壊すのは、“本物の悪”が出てきてからだ。」
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次回予告
第64話「悪役、旧型に心を見る」
――「悪にも、正義にもなれねぇ存在。
だからこそ……守りたくなる。」
ちょっと休憩。
「悪役、ヒーローの恋愛相談を受ける」
──悪役に恋愛相談するヒーロー、終わってないか?
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昼の【カフェ・ヴィラン】。
豆を挽く音だけはいつも通りで、
この街で“平常運転”してるのはうちの店ぐらいだろう。
ミレイがコップを磨きながら、ふと顔を上げる。
「アオトさん、今日……静かすぎません?」
「静かな日は嫌な客が来る日だ。悪役の勘だ。」
「……当てなくていい勘ですよ、それ。」
そう言ってる最中に――
カラン。
……来たよ、嫌な勘。
ドアの向こうから、太陽より眩しい笑顔が飛び込む。
「アオトさぁぁぁん!!助けてください!!」
レイだ。
元気だけが取り柄のヒーロー。よりによって忙しくない日に来るな。
「帰れ。昼のコーヒーぐらい静かに飲ませろ。」
「無理です!!今日だけは無理です!!」
ミレイが心配そうに近寄る。
「レイさん、何があったんです?」
「恋です!!!」
……昼のコーヒー返せ。
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レイは勝手に席に座り、勝手に水を飲み、勝手に話し始めた。
「最近気になるヒーローがいて……
クールで……優しくて……
この前“無茶しないでね”って言ってくれて……
その笑顔がもう……あの……」
机に突っ伏すレイ。
ミレイが微笑む。
「かわいいですねぇ……」
「カフェで恋をこぼすな。床が甘ったるくなるだろ。」
「アオトさん、楽しそうじゃないですか?」
「楽しそうじゃねぇよ。俺は今ただの被害者だ。」
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「で?どうしたいんだ。」
レイが勢いよく顔を上げる。
「アドバイスください!!どうすれば振り向いてもらえますか!?」
俺は深く息をつき、コーヒーを一口。
……甘い。
ミレイ、砂糖入れたな。
「簡単だ。」
レイが前のめりになる。
「無茶すんな。」
「……はい?」
「ヒーローは“好かれたい”のと“カッコつけたい”で死にかける。
本当に好かれたいなら――生き残れ。」
ミレイが優しく補足する。
「安心させるって、大事ですよ?」
「そういうこった。
派手に守るより、静かに生きて帰るほうがよっぽど強ぇ。」
レイの目がうるうると光る。
「アオトさん……かっけぇ……!
俺、今日からマジで無茶しません!!」
「それ何回目だ?」
「今度こそ大丈夫です!!」
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レイは勢いのまま立ち上がり、
店を飛び出す前に深々と頭を下げた。
「アオトさん、ミレイさん!ありがとうございました!!
俺、行ってきます!!」
がしゃん、と派手にドアが閉まる。
ミレイがふっと笑う。
「……アオトさんって、やっぱり優しいですよね。」
「優しいは悪役には悪口だ。」
「でも、レイさんちょっと救われてましたよ?」
俺は肩をすくめる。
「救ったんじゃねぇよ。
勝手に死なれたら、こっちが後味悪いだけだ。」
ミレイは何も言わず、穏やかに笑った。
……まったく、最近のこの店は平和すぎる。
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