第62話 悪役、正義の暴走を見届ける
──正義が壊れる音は、やけに静かだった。
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ニュースが流れたのは昼下がり。
「最新型セイヴァーユニット、制御不能に」
という一行。
ミレイが手を止めた。
「……これ、またAIヒーローですよね。」
「“また”って言葉が出る時点で、もう末期だ。」
画面の中、人型の機械集団が街を蹂躙していた。
無表情の顔、無音の一撃。
止めに入った人間のヒーローが、次々と地に沈む。
「……誰が正義で、誰が悪かわかんねぇな。」
アオトは静かにコーヒーをかき混ぜた。
スプーンが鳴る音だけが、壊れたニュース音声の隙間に響く。
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夜。
店のドアが勢いよく開いた。
入ってきたのは、血に汚れたレオン。
「……想像以上にやばい。」
「どこまで?」
「南区が全滅だ。ヒーロー達が止めようとしたが……
“味方”にやられた。」
ミレイが青ざめる。
「味方に……?」
「セイヴァーたちは、“非効率な感情”を排除するよう命令を書き換えられた。
つまり、“人間”が邪魔なんだ。」
沈黙。
アオトは立ち上がり、マントを羽織る。
「……皮肉だな。
“正義が人間を見捨てる”――まるで、あいつの言葉通りだ。」
レオンが睨む。
「行くのか。」
「行くさ。悪役は、正義が壊れる瞬間を見届ける義務がある。」
「止める気は?」
「止めるなんて言葉、悪役の辞書にはねぇよ。
ただ――演目が終わるまでは、客席に座っちゃいられねぇ。」
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夜の街。
炎と警報の中を歩くアオトの背中を、
遠くから一台のドローンが追う。
それはまるで、
“正義の亡霊”が見張っているようだった。
──悪と正義が入れ替わる音。
それは、コーヒーが冷めていくのと同じ速度で、静かに広がっていた。
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次回予告
第63話「悪役、滅びゆく正義を拾う」
――「正義が死んだら、悪の出番だろ。」




