表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『職業:悪役(たまに正義の相談役)』   作者: よしお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/98

第61話 悪役、過去と再会する



──廃ビル群。

風が鳴っている。

それは笛のようで、悲鳴のようだった。



アオトとレオンが立つ屋上。

足元には、割れたガラスと黒焦げの床。

そして――煙の中から、もうひとりの“アオト”が現れた。


若き日のアオト。

黒マントを翻し、赤い瞳を細めて笑う。


「……ずいぶん、老けたな。」

「お前はずいぶん、うるさくなったな。」

「悪役は沈黙で語るもんだろ?」

「いや、今は雑談で生き残る時代だ。」


ふたりのアオトが向かい合う。

同じ声、同じ癖、同じ笑い方。

けれど――片方だけが、純粋に“壊すためだけに生きていた”。



「ヒーローは弱い。正義は偽り。

 俺はそれを証明するために生まれた。」

「……その考え、昔の俺だな。」

「昔?違う。“お前が忘れた”だけだ。」


レオンが口を挟む。

「話は後だ。向こうが殺気を上げてる。」

「分かってる。」


風が一瞬止まった。

次の瞬間、マントが閃光のように舞う。


ドンッ!


屋上が爆ぜた。

レオンの銃弾が火花を散らし、若アオトの手刀が空気を裂く。

衝撃波で瓦礫が宙に舞い、夜景が揺らめいた。



「力、鈍ったな。お前、いつから守る側になった?」

「守ってるつもりはねぇ。ただ、壊し方を選んでるだけだ。」

「選ぶ悪なんて、もう悪じゃねぇよ。」


言葉の直後、若アオトの蹴りが炸裂。

アオトの腹に命中――マントが裂ける。

レオンが援護射撃を放つが、弾はすべて弾かれた。


「無駄だ。“昔の俺”には通じねぇ。」

「分かってる。でも、撃つのが俺の仕事だ!」



数分後。

ビルの屋上はもはや形を保っていなかった。

火花と鉄骨の雨の中、アオトが片膝をつく

若アオトが立っている。

赤い瞳の奥で、かすかに笑った。


「俺が壊したかったのは、ヒーローじゃなかった。

 “秩序そのもの”だ。」


アオトは口を開きかけたが、

若アオトが先に続けた。


「……この世界、いずれ“正義”が暴走する。

 人間が作った秩序は、人間を見捨てる。

 その時――俺を止められるなら、止めてみろ。」


「お前、何を──」


「俺は消えねぇ。

 どんな時代になっても、“悪”の形を変えて、また現れる。

 それが、俺だからな。」


風が吹き抜ける。

若アオトの輪郭が霧のように崩れ、

夜の闇へと溶けていった。



残されたアオトは拳を握りしめる。

「……止めてみろ、ね。」


レオンが横目で見た。

「挑発されたな。」

「挑発じゃねぇ。

 ……あいつ、未来を見てた気がする。」


「未来?」

「“正義の暴走”――多分、近い。」



街の灯が遠くでまたたく。

その光は、美しくも不気味に、

まるで“正義”の点滅信号のように見えた。




次回予告:第62話 悪役、正義の暴走を見届ける

──負けの中に残った“もう一つの火種”。

過去が消えても、“悪”はまだ終わっちゃいない。


ちょっと休憩。


「悪役、ヒーローの“宿題”を代わりに見る」


──悪役は、子どもの宿題よりヒーローの宿題のほうが苦手だ。



昼のカフェ。


ミレイがケーキを並べていると、

店の扉がゆっくり開いた。


「……あの、ブラックアオトンさん……ですよね?」


細身の少年ヒーロー。

緊張で声が裏返ってる。


「誰だお前。」


「ひっ……!!

 し、し、失礼しました! ヒーロー学校一年、カズシと言います!」


ミレイが首をかしげる。


「高校生くらいに見えるけど……?」


「ヒーロー学校は中等部からあるんですよ〜」


いや教えるのそこじゃない。


カズシは震えながら封筒を差し出してきた。


「こ、これ……ヒーロー学の“宿題”で……

 “悪役の心理を分析せよ”ってレポートが課されてて……

 ぼ、僕……何も書けなくて……」


俺は封筒を開く。


《悪役の心の闇に迫れ!

 〜正義の対極を知ることが、ヒーローの第一歩〜》


「うわ。雑な課題だな。」


「わ、わかりますか!?

 先生、ノリで出したって言ってました!!」


ミレイ、吹き出した。


「ヒーロー学校ってこんなのなんだ……」


「こんなのだから困ってんだろ。」


カズシは机に手をついて叫んだ。


「お願いです!!

 アオトさんの“闇”を見せてください!!」


「やだよ。」


「なぜですか!!」


「闇は人に見せるもんじゃねぇ。

 あと俺、闇ほとんど残ってねぇ。」


「それはそれで問題じゃないですか?」



とりあえずコーヒーを淹れながら言った。


「お前、悪役ってどんなイメージだ?」


「えと……

 “正義を憎み、世界征服を企む存在”です!」


「漫画読みすぎだ。」


「じゃあ実際の悪役って……何を考えて動いてるんですか?」


ミレイが興味津々で聞いてくる。


「マスター、私も気になります!」


「お前まで食いつくな。」



俺はため息をついたあと、淡々と答えた。


「……悪役はな。

 別に世界なんかどうだっていい。

 ただ、“自分の役割”を演じてるだけだ。」


カズシが目を丸くする。


「役割……?」


「ヒーローが必要としてる“敵”をやってるだけだ。

 悪役の存在が、正義の舞台を成立させる。

 それだけの話。」


ミレイが静かに言った。


「……ちょっと切ないですね。」


「切なさで仕事してねぇよ。」


カズシは震える声で言う。


「で、でも……

 そんな“自分を犠牲にした役割”を……

 本当に選んだんですか……?」


俺は少し黙ってから、笑った。


「違ぇよ。

 向いてたからやっただけだ。」


カズシの手が止まる。


「……向いてた……」


「向き不向きだよ。

 ヒーロー向いてるやつもいれば、

 悪役のほうが動きやすいやつもいる。」


「……そんな軽い理由で……」


「軽いくらいがちょうどいい。

 重い理由で悪やってるやつは……だいたい壊れる。」


カズシはペンを走らせる。

ガリガリ書いている。


「なるほど……!

 悪とは“役割としての闇”……!」


「やめろそれ書くな授業荒れる。」



帰り際。


カズシは頭を下げて言った。


「アオトさん……

 僕……悪役って怖いと思ってましたけど……

 ちょっと、見方が変わりました。」


「変えなくていい。怖く見とけ。」


「でも……

 今日のアオトさんは、そんなに怖くなかったです。」


「ミレイ、帰りにそいつ殴っといて。」


「え、なんで私が!?」


カズシは笑って走り去った。


ミレイが言う。


「マスター、優しいですね。」


「優しさじゃねぇよ。

 ああいう真っ直ぐなのは……壊れやすい。」


ミレイが小さく微笑む。


「守ってるんですよね、ヒーローの子たち。」


「守ってねぇ。

 ただ、子どもが泣くと後味悪いだけだ。」



──悪役が宿題を手伝うと、

ヒーローの世界がちょっとだけマシになる。


……まぁ、俺には関係ねぇけどな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ