表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『職業:悪役(たまに正義の相談役)』   作者: よしお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/101

第54話 悪役、旅に出る



──コーヒーは、淹れ方より持ち歩き方が難しい。



朝焼けの街は、コンクリートがまだ眠そうだった。

店のシャッターを下ろす音が、やけに大きく響く。


張り紙には、こう書いた。


「臨時休業。マスター、メンテナンス中。」


……我ながら、便利な言葉だ。


バッグには、最低限の服とドリップバッグ。

それと、ミレイが勝手に詰めたお菓子。

「甘いもので人生は救えます」とか書いてあったけど、

正直、砂糖の過剰摂取だ。


「……ま、行くか。」


電車の音と、朝の風。

俺はカフェを後にした。

行き先は決めてない。ただ、“遠く”へ。



最初の目的地は、かつて怪人が暴れていた旧市街。

今は観光地として整備され、“ヒーロー記念通り”なんて看板が立ってる。


「皮肉だな。破壊した場所が、今じゃフォトスポットか。」


屋台のコーヒーを一杯飲んでいると、隣の客が言った。

「ここ、昔“悪役”が住んでたらしいですよ。

 でも、最後は街を守って消えたんだって。」

「……そいつ、だいぶ都合よく編集されてんな。」

「いい話っすよね!」

「そうか。本人が聞いたらコーヒー吹くと思うけどな。」



夕方。

川沿いのベンチで休んでいると、

聞き慣れた声が背後から飛んできた。


「……やっぱりいた! 置いていくなんてひどいです!」


振り向けば、ミレイ。

息を切らして、バッグを抱えて立っていた。

「誰もいないカフェ見て、泣きそうになりました!」

「じゃあ、戻れ。」

「戻りません!」

「めんどくせぇヒロインだな。」


ミレイは笑いながら隣に座る。

「旅の相棒、空席でしたよね?」

「いや、最初から一人旅の予定だ。」

「でもコーヒーは二人で飲んだ方が温かいです。」

「……うるせぇ。砂糖入れすぎんなよ。」



夕暮れの風が、二人のカップを冷ます。

遠くで電車の音が鳴り、街の灯がゆっくりと灯る。


「マスター、次どこ行きます?」

「知らねぇ。けど、行き先が分かってたら旅になんねぇだろ。」

「……カッコつけましたね。」

「悪役の生き方講座、開講中だ。」


ミレイが笑う。

その横顔を見ながら、俺はカップを掲げた。


「――じゃあ、悪と平和と砂糖に、乾杯だ。」



☕️ 次回予告

第55話「悪役、観光地でスカウトされる」

――“悪役カフェ in 温泉街”、まさかの出張開店!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ