第49話 悪役、休日に誘われる
──悪役の休日に、平和は来ない。
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定休日の朝。
店を閉めて豆を挽いていたら、ドアのベルが鳴った。
……いや、今日閉店日だぞ。
「マスター! お弁当できました!」
ミレイだ。笑顔がやたらまぶしい。
手にはバスケット。つまり――また面倒の予感。
「ピクニック行きましょう!」
「なぜ悪を外に連れ出す。」
「日光浴です! 悪にもビタミンが必要です!」
「……理屈に反論できないのが腹立つな。」
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数十分後。
俺は芝生の上に座っていた。
隣にはミレイ、そしてツバサ。
「いやー、外のコーヒーもうまいっすね! 俺、野外担当に復帰したいな!」
「お前はどこの部署の人間だ。」
「“風のヒーロー”っす!」
「肩書きまで風化してるぞ。」
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そこへ黒髪ショートの女性が歩いてきた。
スーツ姿に名札――《元・支援ヒーロー:セイナ》。
「偶然ですね、マスター。近くで支援ボランティアしてて。」
「元ってついても、動きがヒーローのままだな。」
「癖みたいなものです。……今日は手伝いじゃなく休憩ですよ。」
「なら、今のうちに悪でも味わっとけ。」
セイナは小さく笑い、ツナサンドを差し出した。
「罪悪感のないツナです。」
「……お前、それ言ってみたかっただけだろ。」
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そして――遠くから派手な声。
「うわー! この辺カレーの匂いしません!?」
スパーク・レイだ。
まだカレーに未練があるらしい。
「お前、まだ食べてんのか。」
「違いますよ! “もう燃えない人生”をテーマにした再スタートです!」
「それでまた燃えたらどうする。」
「前向きに消火します!」
ツバサが笑う。
「スパークさん、ポジティブの暴力っすね!」
「お前も似たようなもんだ。」
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ミレイがレジャーシートを広げ、
ツバサがコーヒーを淹れ、セイナが日焼け止めをみんなに配り、
スパークが太陽より眩しい笑顔で談笑している。
……悪役の昼下がりとは、どうしてこうも騒がしいんだ。
俺は木陰に腰を下ろし、空を見上げた。
雲がゆっくり流れていく。
たぶん、平和ってのはこういう喧騒のことを言う。
静かで、少しうるさくて、悪にも居場所がある。
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「マスター、楽しかったですね!」
「お前、楽しみすぎだ。」
「じゃあ次は“悪役たちの遠足”にしましょう!」
「……タイトルから嫌な予感しかしない。」
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☕️ 次回予告
第50話「悪役、再演される」
――「平和に慣れた頃が、いちばん静かで危ない。」




