第47話 悪役、誕生日を忘れられる
──悪役に誕生日なんて必要か?
……必要だったら今こんなに虚しくねぇ。
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朝。
カフェ・ヴィラン、静かな営業開始。
ミレイが明るい声で「おはようございます!」
客もぼちぼち入ってきて、
豆を挽く音と笑い声が混ざり合う、いつもの朝。
ただ一つ。
“誰も気づかない”という問題を除いては。
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俺の誕生日だ。
……そう、誰も知らない。
いや、知られたくない。けど、
知られないとそれはそれでムカつく。
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昼過ぎ、元バイトのツバサが来店。
「マスター、今日なんかいつもより静かっすね!」
「年を取ると静電気みたいに静かになるんだよ。」
「何それ?」
ミレイは厨房で笑ってる。
「今日は落ち着いた雰囲気でいきましょうねー!」
……完全に忘れてやがる。
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閉店間際。
いつも通り片付けて、
「じゃあ帰りますね!」と元気に手を振るミレイ。
「ああ……おつかれ。」
静かにドアが閉まる。
……誰も言わない。
「おめでとう」も「年いくつですか」も。
ま、悪役の誕生日なんてそんなもんだ。
俺はひとり、カウンターでコーヒーを淹れた。
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その時、ドアのベルが鳴る。
「すみませーん、忘れ物です!」
戻ってきたミレイが、小さな箱を差し出した。
「開けてください。」
中には、カップサイズの小さなケーキ。
チョコレートで「悪役殿」と書かれている。
「……これ、お前いつの間に。」
「今日の分の“演技指導”代です!」
「なんだその報酬体系。」
ミレイが微笑む。
「お誕生日、おめでとうございます。
たぶん、マスターが生まれてなかったら、
この店、退屈だったと思うので。」
「……お前、台詞のセンスだけはいいな。」
「褒めました?」
「減給は免除だ。」
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ケーキを半分食べながら、
俺は静かに言った。
「悪役のくせに、祝われると……悪い気しねぇな。」
ミレイが笑う。
「じゃあ、また来年も忘れたふりしますね!」
「……それ、覚えてるって言うんだよ。」
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☕️ 次回予告
第48話「悪役、子どもにヒーローと間違えられる」
――「……訂正したら泣かれたんだが、俺どうすりゃいい?」




