第46話 悪役、深夜ラジオに呼ばれる
──電波ってのは、不思議だ。
誰かの寂しさを、勝手に拾ってくる。
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夜10時。
カフェ・ヴィランは閉店後。
ミレイがスマホを片手に小躍りしていた。
「マスター! “深夜ラジオ”から出演依頼きましたよ!」
「……またか。生放送はこりごりなんだが。」
「今回は“声だけ”です!」
「声でも失言はするぞ。」
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数日後、収録スタジオ。
タイトルは《夜更けのヒーローズ・トーク》。
司会の若いパーソナリティが笑顔で迎える。
「本日のゲストは……元・悪役で今は喫茶店マスターのアオトさんです!」
「肩書きだけでカフェの信用落ちそうだな。」
スタジオが笑いに包まれる。
どうやら俺の“皮肉トーク”目当てのファンもいるらしい。
世も末だ。
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「アオトさん、悪役時代と今の違いってありますか?」
「そうだな。あの頃は世界を救う奴らを見上げてた。
今は、コーヒー越しに見下ろしてる。」
「見下ろしてるんですか?」
「カウンターが高いからな。」
また笑いが起きる。
まあ、悪役のジョークなんてそんなもんだ。
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だが、番組の終盤。
リスナーからのメールが読まれた。
“正義も悪もやめたくなった時、
アオトさんの言葉で少しだけ救われました。
だから、ありがとう。”
スタジオが一瞬静かになる。
司会が言った。
「……素敵なメッセージですね。」
俺は少し間を置いて、マイクに向かった。
「世の中、正しい奴ほど壊れやすい。
だから、壊れた奴の言葉が時々効くんだよ。」
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帰り道。
夜風が静かに吹いている。
ミレイが言った。
「マスター、放送聴いた人、また増えそうですね。」
「……そうなったら、店が混む。」
「嬉しいくせに。」
「うるせぇ。夜風が冷める。」
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カフェに戻って灯りを点ける。
カウンターの上に、まだ温もりの残るマイクロフォンが置かれていた。
正義でも悪でもない、ただの声。
それが、今の“俺の武器”なのかもしれない。
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次回予告
第47話「悪役、誕生日を忘れられる」
――「……いや別に、祝ってほしいわけじゃねぇけど?」




