第45話 悪役、バイト面接を受ける
──“働かせてください”って言葉ほど、
この世で似合わないのが俺だと思う。
⸻
朝。
いつものカフェ・ヴィランのドアが、珍しく“面接会場”になっていた。
ミレイが掲示した求人ポスター。
《初心者歓迎!悪の香りただようカフェで働きませんか?》
……タイトルの時点で人材を寄せつけない。
⸻
「マスター、人手が足りないんです!」
「足りないのは人手じゃなくて“常識”だと思うが。」
そう言いながらも、
ミレイに押されて俺が面接官をやることになった。
だが――
最初の応募者。
「悪役さんに憧れてて! 闇を感じる接客がしたいです!」
「……それ、接客じゃなくて呪いだろ。」
二人目。
「SNSでバズるカフェって聞いて……フォロワー増やしたくて!」
「目的が“悪”の意味を履き違えてるな。」
三人目。
「あなたみたいなヒーローになりたいです。」
「帰れ。」
⸻
昼。
面接は地獄のように続き、
気づけば俺がテーブルに座ってため息をついていた。
「マスター、なんか顔が“落ちた人”みたいですよ?」
「お前な、俺が落とした側だぞ。」
「でも……今日の“対応力”とか、悪くなかったですよ?」
ミレイがいたずらっぽく笑う。
「“接客、向いてるんじゃないですか?”って思いました。」
「……やめろ、その“合格通知”みたいな言い方。」
⸻
夜。
誰も採用しなかったはずなのに、
カウンターの上に履歴書が一枚残っていた。
氏名:ミレイ
志望動機:ここで働きたいと思ったから。
「……なんだこれ。」
「再面接です。」
「もうお前採用されてるだろ。」
「じゃあ、改めて言わせてください。
“この店、やっぱ好きです。”」
⸻
俺は黙ってカップを差し出した。
「合格だ。時給は……愛想次第だな。」
「それ、ブラックじゃないですか?」
「うちは“ブラック”が売りだろ。」
⸻
☕️ 次回予告
第46話「悪役、深夜ラジオに呼ばれる」
――「……生放送は、もう懲りてたはずなんだが。」




