第43話 悪役、人気投票でまさかの一位になる
──悪役が愛される時点で、この社会はだいぶ疲れてる。
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朝。
ミレイがタブレットを見ながら固まっていた。
「マスター……ニュース見ました?」
「ニュースなんてロクなもんじゃねぇ。」
「“今期の人気ヒーロー&ヴィラン投票”で、マスターが一位です!」
「は?」
タブレットには確かに書いてある。
第1位:アオト(元悪役・現カフェ経営)
コメント:「皮肉が優しい」「悪なのに癒やされる」「ブラックアオトンて名前、ダサいけどなんかいい」
……なんだその理由。
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昼。
カフェ・ヴィランは異様な賑わいだった。
「投票したよ!」とか「悪役推しです!」とか、
なんかもう、誰もコーヒー飲みに来てない。
「マスター、今日の予約30件入りました!」
「……営業妨害だろこれ。」
しまいにはテレビ局までやってきた。
「一言コメントを!」
「悪役が人気って、どう思われますか!?」
俺はカメラを見て、
いつも通りの無表情で答えた。
「……社会が限界なんだろ。」
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放送翌日、SNSがざわついた。
《#悪役に癒やされた》《#コーヒーで救われた》
トレンド入りしてる。
ミレイが笑いをこらえながら言った。
「マスター、今“悪役界の良心”って呼ばれてます!」
「悪役に良心がある時点で、ジャンル崩壊してるだろ。」
「でも、みんな喜んでますよ。」
「……そうか。」
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夜。
閉店後の静かな店内で、
カウンターに一枚の投票用紙が置かれていた。
【推しコメント欄】
あの人の言葉で、自分を責めなくていいと思えた。
裏には、ただ一言。
“ありがとう”
俺はそれを見て、
ふっと笑って、コーヒーを一口。
「……人気なんて一瞬で冷める。
でも、冷めたあとが本物だ。」
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☕️ 次回予告
第44話「悪役、街の落とし物を拾う」
――「拾ったのが財布じゃなくて“夢”だった件。」




