第4話 ヒーローのクレーム対応って、だいたい怪人がやらされる。
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「……で、また俺が行くのか?」
朝イチの連絡でそれを聞いた瞬間、コーヒー吹いた。
管理局の担当が言うには、ヒーローたちからクレームが殺到してるらしい。
『昨日のステージ、爆発が強すぎた!』
『敵のセリフが心に刺さった!』
『倒す前にセリフを遮るのはマナー違反!』
……いや知らんがな。
「アオトさん、お願いできます? 現場で“謝罪怪人”として対応を……」
「なんだその肩書き。新職種か?」
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昼過ぎ、俺は“ヒーロー相談センター”にいた。
壁には「正義は笑顔で!」と書かれたポスター。
その前で、スーツ姿のヒーロー10人が腕を組んで待っている。
「ブラック・アオトンさんですね?」
「はあ、一応そうですが。」
「あなたの演出、ちょっとやりすぎじゃないですか?」
「爆破演出でスーツ焦げたんですよ!」
「あと、“この程度で正義か?”って言葉……地味にメンタルきました。」
……繊細すぎるだろ、ヒーロー。
「申し訳ありません。以後、火力は抑えます。セリフも“この程度で素敵な正義ですね!”に変えます。」
「……あ、それならアリかも。」
「じゃあ次からそれでお願いします!」
ヒーローたちは満足げに帰っていった。
残された俺は、壁にもたれかかりながらため息をついた。
「……ヒーロー社会、平和すぎてクレームまで優しいな。」
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控室に戻ると、バイトのミレイがスマホ片手にニヤニヤしていた。
「アオト先輩、またニュースになってますよ!」
「今度は何だ。」
「“悪役、神対応で和解!”って。」
「悪役なのに神対応って、もう矛盾の塊だろ。」
ミレイは笑いながら言った。
「でも、悪役が一番“正義”してるってコメント多いですよ。」
「……皮肉だな。俺、悪役やってんのに。」
「だからいいんですよ。ヒーローが増えすぎた今、誰かが悪を引き受けないと。」
俺は苦笑した。
「……やっぱ、悪役も立派な仕事だな。」
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夜。
センターを出ると、街中のビジョンにはヒーローの広告が並んでいた。
《今日もあなたの街に、正義を!》
俺は缶コーヒーを開けて、呟く。
「じゃあ俺は、明日も“悪”をやっとくか。バランス取るためにな。」
その瞬間、スマホが震えた。
《新規依頼:ヒーロー同士の口論、仲裁希望(悪役役)》
「……やっぱり、俺の出番は尽きねぇな。」
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次回:
第5話「街角ヒーローグッズ店、バイトしてるの俺だけ悪役」
――「在庫がヒーローまみれで売れない!? 悪役が立て直す、正義の物販大作戦!」




