第37話 悪役、正義の表彰式で台無しにする
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光の舞台、影の支配者。
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朝。
会場は金色の照明で輝いていた。
ステージ上にはスーツ姿のヒーローたち。
観客席にはカメラと笑顔がびっしり。
「……ここ、俺が来る場所じゃないな。」
ミレイがそっと背中を押す。
「マスター、名誉ヒーローで呼ばれたんですから。」
「名誉ヒーローか……笑い話にしか見えねぇ。」
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壇上。
司会者がマイクを握る。
「そして今年の名誉ヒーローは――アオト•クロノ氏、改め、ブラック•アオトン氏です!」
拍手が鳴る。
だが俺の顔には、皮肉しか浮かばない。
「……俺、悪役ですよ?」
「はい、名誉ですよ!」
ミレイが苦笑い。
「でも、顔がやたらカッコついてますね。」
「それ、正義の魔法だな。」
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壇上に上がると、スポットライトが眩しい。
マイクを握る。
目線を観客に送る。
……やるか。
「皆さん、正義の皆さん。こんばんは。
悪役だった俺が、名誉ヒーローになったそうです。」
会場、微妙な間。
「えーっと、賞状はどこですか?」
司会者、手を差し出す。
「はい、こちらです。」
俺、賞状を持ちながら笑う。
「なるほど、これをもらえば、僕も善人になった気分ですか?」
会場、微妙に笑いが漏れる。
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さらに口を開く。
「でも正直言うと、悪役の方が気楽でした。
命令されず、自由に暴れられる。
名誉ヒーロー? それ、気を使いすぎて肩凝るんですよ。」
ざわり、と会場。
「……あの悪役、皮肉がキツいぞ。」
「でも、なんか面白い。」
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壇上を降りると、ヒロシが近づいてきた。
「さすがアオト。
名誉ヒーローの笑いを独り占めするとはな。」
「いや、笑いくらい独占しても許されるだろ。」
「……その通りだ。」
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会場を後にして、外に出ると夜風が心地いい。
ミレイがぽつり。
「マスター、結局台無しにしたんですね。」
「だって、俺の悪役魂が眠れるわけないだろ。」
冷めたコーヒーみたいに苦くて、でも少し甘い夜。
――光と影の境界は、今日も揺れていた。
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☕️ 次回予告
第39話「悪役、ヒーローからのオファーを断る」
――「もう、正義の手伝いはご免だ。」




