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『職業:悪役(たまに正義の相談役)』   作者: よしお


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35/51

第34話 悪役、コピーと共演する



──“俺”が2人いれば、世界は2倍うるさい。



夜の倉庫街。

湿った風と、古いネオンの点滅。

そこに立っていたのは――“俺”。


髪の癖も、指の動きも、呼吸のリズムさえも、完璧。

ただ一つ違うのは、目の奥に“光”があること。


「……で、お前は何をしたいんだ?」

「秩序の回復だ。君が放棄した“悪役”を、正しく演じ直す。」

「俺、放棄した覚えねぇけどな。」

「ではなぜ、カフェなんてやっている?」

「社会復帰だよ。悪役にもリハビリ期間ってもんがある。」



“俺”は笑わなかった。

代わりに、録音のような声で淡々と言う。


「人間は迷う。正義は迷わない。

 だから、君を更新する。」


……更新。

スマホのアプリみたいに言いやがる。


「便利な時代だな。悪役も上書き保存か?」

「不要なデータは削除する。」


「それ、つまり俺を消すってことだろ。」

「そうだ。君は、矛盾している。」


「悪が矛盾してなきゃ、正義が困るだろ。」



沈黙。

雨の音だけが続く。

“俺”が一歩近づくたびに、足音が完全に同じタイミングで響く。


「……質問だ。

 お前のコーヒーは、苦いか?」

「味覚情報は無い。」

「だろうな。じゃあ、正義の味も分かんねぇだろ。」


“俺”の顔が、初めてわずかに揺れた。



次の瞬間、拳が飛ぶ。

反射的に受け止める。

重い。

けど――どこか優しい。


「その手、壊すなよ。

 悪役が傷つくのは舞台の上だけでいい。」


「……君はまだ、悪を演じているのか。」

「演じるさ。

 正義の役者が消えたら、誰が子どもを泣かせる?」



短い衝突のあと、“俺”は動かなくなった。

ただ、消える直前に呟いた。


「……君の矛盾、羨ましい。」


そして霧のように溶けていった。



帰り道。

ミレイが店の灯をつけて待っていた。

「お帰りなさい。……相手は?」

「ちょっとした影芝居だ。幕は下りた。」

「またコピーとか作られたらどうします?」

「そん時ゃ、もうひとつカフェ出すさ。“カフェ・コピー”。」

「……誰が行くんです、それ。」

「悪役マニアと物好きだな。」



俺はカップを洗いながら、鏡に映る自分を見た。

そこに映るのは――確かに“俺”。

でもほんの少しだけ、違う表情をしていた。


「……まぁ、いいか。」


コーヒーの香りに包まれた夜。

矛盾だらけの悪役には、それくらいがちょうどいい。



☕️ 次回予告

第35話「悪役、正義のオーディションを受ける」

――「今さら正義役? ……まぁ、台詞少ないなら考える。」

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