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『職業:悪役(たまに正義の相談役)』   作者: よしお


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33/39

第32話 悪役、正義の亡霊と再会する



──誰かが、俺の声で「正義」を語っていた。



朝。

カフェ・ヴィランのスピーカーから、珍しくニュースが流れていた。

“昨夜、人気番組で元悪役アオト氏が『正義は秩序に従うべき』と発言――”


「……してねぇよ。」


俺はトーストを噛みながら、画面を睨む。

映像の中の“俺”は、ちゃんと笑って、ちゃんと喋っている。

ただし、内容だけが全部すり替わっていた。


ミレイが、パンくずをつけたまま顔を上げた。

「マスター、これ……どう見てもマスターの声ですけど」

「俺もそう思う。けど中身が“俺らしくなさすぎる”」

「優しすぎるって意味ですか?」

「違う。頭がよすぎる。」



昼。

客の青年がスマホを見せながら笑った。

「見ました? あの動画。アオトさん、ついに更生したんすね!」

「……更生って言葉、まだこの国にあったんだな。」

「え?」

「気にすんな。砂糖多めでいいか?」


青年が帰ると、ミレイが小声で言った。

「これ、誰が流してるんでしょう」

「“正義”を売ってる奴らだよ。商売敵だな。」



夕方。

レオンから一通のメッセージ。

《見た。あれ、システムの残響か、それとも誰かの手か。》

俺は返信した。

《どっちにしても、俺のギャラは出てねぇ。》



夜。

雨の音だけが店を包む。

外灯の下、誰かの影が一瞬だけ映った。

でも、気のせいかもしれない。


カウンターの上に置かれた封筒。

中には一枚の写真。

俺とレオンが肩を並べて笑っている。

裏には赤い文字で、こう書かれていた。


“あなたの正義を、もう一度見せてください。”



俺はしばらく黙って、コーヒーを啜った。

冷めかけてたけど、悪くない味だった。


「……なぁ、ミレイ。」

「はい?」

「正義って、腐るとどんな味だと思う?」

「……苦くて、でもちょっと甘い気がします。」

「だろうな。飲みすぎると胸焼けする。」



外では雨がやまない。

窓に映った自分の顔が、一瞬だけ“他人みたいに”笑った。


「……ま、明日も営業だ。」


――亡霊の相手は、コーヒーを淹れてからでも遅くない。



次回予告


第33話「悪役、正義を名乗る影を追う」

――「俺の悪役、勝手に独立してんじゃねぇよ。」


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