第31話 悪役、消されたニュースを追う
──真実は、いつもバグ扱いされる。
⸻
「マスター、ニュース全部消えてます!」
ミレイの声が響いた朝。
カフェ・ヴィランのテレビは、いつもより静かだった。
昨日の生放送で話題になった“正義システム”の特集――
どこの局も、一斉に跡形もなく消している。
「再放送もない、アーカイブも削除済み……え、そんなことある?」
「まぁ、正義が都合悪くなると、まず“記録”を殺すからな。」
「物騒な言い方しないでくださいよ!」
俺はコーヒーを淹れながら、
スマホに映る“404”の文字列を眺めた。
真実にアクセスできない社会ほど、静かでうるさい場所はない。
⸻
昼過ぎ、店のドアが鳴った。
「……また、お前か。」
黒いコート。無駄に存在感。
レオン・グレイ、登場。
「昨日、見てたぞ。お前、地上波で毒まき散らしたな。」
「お前もそっち側にいたんだろ。反省会か?」
「いや、報告だ。“正義システム”の開発元、消えた。」
「会社ごと?」
「データも社員も、きれいに。」
ミレイがぽかんと口を開けた。
「……幽霊会社ですか?」
「いや、“消された会社”だ。」
⸻
カウンターの奥、俺はレオンと並んで座る。
「で、お前はどうする?」
「何もしねぇよ。俺はカフェのマスターだ。」
「またそれか。お前、静かな朝ばっか大事にしてるけど、
夜はどうすんだ?」
「寝る。朝がくるように。」
レオンは笑った。
「そういうとこ、昔からずるいんだよ。」
俺はため息をついてカップを磨いた。
「真実なんて、放っといても勝手に顔出す。
……その時、誰が正義の顔して迎えるか、だ。」
レオンが立ち上がる。
「やっぱり、お前とは話が早い。」
「早いだけで、面倒くさいけどな。」
⸻
外に出ると、空は薄曇り。
人々はスマホを見ながら、消されたニュースの話をしていた。
――“何かが起きたはずなのに、誰も証拠を持っていない”という違和感。
俺はエプロンのポケットに手を突っ込みながら呟いた。
「情報が消えても、匂いは残る。
……焙煎と同じだな。」
カフェの看板が風に揺れる。
“Coffee & Villain”――今日も営業中。
次回予告
第32話「悪役、正義の亡霊と再会する」
消えたはずのシステムが、人の形をして戻ってきた。
それは“正義の残骸”か、“悪の記憶”か――。
「お前が捨てたものは、まだ息をしてる。」




