第29話 悪役、昔の仲間に再会する
──正義と悪が、同じ席でコーヒーを飲む日。
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カフェ・ヴィラン。
昼下がりの喧騒が落ち着き、店の空気がゆるむ頃。
ドアベルが鳴った。
カラン。
「……よう、マスター。今度は晴れてるな」
顔を上げると、そこに立っていたのはレオン。
前回は雨の中だった。
今回は、陽の光を背負っていた。
「傘、いらねぇ分、長居する気か?」
「バレたか」
レオンは苦笑して、カウンターの端に腰を下ろした。
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ヒーローのバッジは外してある。
けど、肩の動きも、視線の走らせ方も、完全に“現場の人間”だ。
……何かを追っている。
「で、今度はどんな“正義の雑務”だ?」
「聞きたいか?」
「聞きたくねぇ。食欲落ちる」
「なら黙って飲め」
……あいかわらず、こいつの会話は味が濃い。
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レオンはブラックを一口飲んで、静かに言った。
「この街、最近またヒーローが増えてきてる。
“余った正義”が、市民を困らせてる。」
「知ってる。そいつらがカフェで説教してくからな」
「……お前、本当に悪をやめたのか?」
「やめたよ。“名札”の方はな」
レオンが鼻で笑う。
「お前が普通のマスターやってる姿、どうしても嘘くさいんだよ」
「お前がヒーローやってる方がホラーだ」
ミレイが横からコーヒーを置きながら笑った。
「仲良いですね、お二人」
「仲悪いだけだ」
声が重なって、また笑いが起きる。
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少しの沈黙。
レオンがふと真面目な顔をした。
「……最近、AIシステムが誤作動を頻繁に起こしてる。
正義システムのデータが色々と書き換えられてるらしい。
いつ、誰の仕業なのかも、まだわかっていない」
「また物騒な話だな」
「これ以上、問題が大きくなる前に止めろとの命令だ」
俺はカップを置いた。
「お前が“止める側”ってのも、変な話だな」
「皮肉だろ? でも、やるしかない……。
俺は今“正義側”だからな。」
そして、低く続けた。
「ただ、そのデータの中に……お前の名前が使われていた」
静寂。
コーヒーの香りだけが、重く漂った。
「……誰だよ、そんな趣味悪いことするのは」
「さぁな、いずれわかる」
レオンは立ち上がり、帽子をかぶる。
「また来る。今度こそ、敵かもな」
「いつも通りだろ」
カラン、とドアが鳴った。
レオンの背中が陽の光に溶けていく。
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“正義が形を持ったとき、
悪はまた生まれる。”
カップの底に沈んだ影が、
次の波乱を告げていた。
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次回予告
第30話 悪役、テレビに出る
“正義システム”の噂が世間をざわつかせる中、
取材依頼が殺到。アオト、まさかの生放送出演!
――悪役、ついに電波ジャック寸前!?




