第27話 悪役、ファンイベントに呼ばれる
──ヒーローよりサイン多い悪役って、世も末だ。
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ミレイが笑いながら言った。
「アオトさん、今度“ヒーローフェス202X”のゲスト出演ですよ」
「……俺、引退したはずなんだが?」
「今は“人気悪役タレント”ですから」
冗談だろと思ってスケジュール表を見た。
“トークショー・撮影会・握手会・グッズお渡し会”――地獄の四連撃。
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当日。
会場には何百人ものファン。
ポスターには「元・伝説の悪役」の文字。
俺の隣では現役ヒーローの面々がキラキラポーズで撮影している。
笑顔がまぶしい。俺はひとりサングラスで無表情。
その結果、なぜか一番人気になった。
「アオトさん!サインお願いします!」
「握手してもらえますか!?」
……いや、なんでだ。俺、悪役だぞ?
ミレイが小声で笑う。
「ツンデレ扱いされてますよ」
「……デレた覚えはねぇ」
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トークステージでは司会がテンション高く叫ぶ。
「さあ皆さん!あの伝説の悪役・ブラックアオトンさんです!!!」
歓声が上がる。
俺は軽く手を上げただけで、会場が悲鳴みたいに沸いた。
「質問コーナーいきましょう!アオトンさん、悪を演じる秘訣は?」
「演じてねぇよ。生活だ」
笑いが起こる。
司会が「え、生活!?」と慌てるが、ファンは拍手してる。
……なんだこの空気。
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終盤、ファンの子どもが泣きそうな顔で近づいてきた。
「アオトン、なんで悪いことしたの?」
……静まる会場。
ミレイが心配そうにこちらを見る。
俺はしゃがみこんで、目線を合わせた。
「悪いことはした。けどな――正義が間違った時に、それを止める奴が必要なんだ」
「それって……悪役?」
「ああ。だから“悪役”は、負ける役でも、消える役でもない」
子どもは涙を拭いて笑った。
拍手が起こる。
俺は帽子を目深にかぶり、照れ隠しで呟いた。
「ヒーローってのは、派手でいいな」
ミレイが横でニヤニヤする。
「人気、止まりませんね~」
「……もう少し悪役らしい静かな生活がしたい」
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“悪役”ってのは、憎まれ役じゃない。
“正義にツッコミを入れる職業”だ。
俺は控室でコーヒーを飲みながら、サインペンを置いた。
「――次は、悪役カフェ編だな」
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次回予告
第28話 悪役、カフェを乗っ取られる
人気に火がついた“カフェ・ヴィラン”が、なぜかヒーローたちの聖地に!?
正義が押し寄せるカウンターで、アオトが出す一杯とは――。




