第25話 悪役、謝罪会見に出る
──世間が望むのは謝罪じゃなく、安心だ。
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「では、本日の会見を始めます――」
まぶしいフラッシュ。
壇上に並ぶマイク。
そして、その中央に立つ俺。
背後のスクリーンには、デカデカと文字が出ている。
『悪役カフェ店主、発言炎上』
……いや、“悪役”ってつけてる時点で炎上想定だろ。
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司会が神妙に言った。
「先日のインタビューでの“悪は必要”発言について、
ご本人から謝罪がございます」
俺はマイクに手を伸ばし、深呼吸。
「……えー、まず最初に。
悪役らしく、謝罪を真面目にやるのが一番つらいです」
記者たち、固まる。
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「俺の発言で、不快になった人がいるのは事実だ。
けど、“悪”ってのはもともと不快なもんだろ?
そうじゃなきゃ、ヒーローも困るじゃねぇか」
「つまり開き直りですか?」
記者が食いつく。
「開き直りじゃねぇ。職務忠実だ」
会場がざわつく。
フラッシュが激しくなり、司会が焦る。
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そのとき、ミレイが客席から手を挙げた。
「質問です!」
「お前、取材陣に混ざって何してんだ」
「ファンの立場から聞きます!
アオトさんにとって、“悪”とは?」
俺は少し考えて、口元をゆるめた。
「……正義がサボったとき、代わりに怒ってくれるやつだ」
一瞬、静寂。
記者たちが、何かをメモする音。
ミレイはにっこり笑った。
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会見が終わる頃には、SNSのトレンドが変わっていた。
【#悪役の言葉が刺さる】
【#謝罪なのに説法】
【#コーヒー飲みたい】
……まぁ、炎上よりはマシか。
控室でコーヒーを淹れながら、俺は呟く。
人は謝罪に“反省”よりも、“物語”を求める。
それを演じるのが、俺たち悪役の仕事だ。
「今日も舞台、無事閉幕っと」
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次回予告
第26話 悪役、舞台に立つ
カフェに届いた一通の招待状。
“正義と悪のミュージカル”――その悪役役に、まさかの本人指名!?




