第24話 悪役、記者に取材される
──世間が忘れた“悪”は、だいたい笑っている。
⸻
昼下がり、カフェ・ヴィランは珍しく満席だった。
――客が“全員メディア関係者”じゃなければ、平和な光景なんだが。
「本日は“元・悪役による社会復帰支援”特集です!」
リポーターの声がやたら明るい。
カメラが俺を抜いた瞬間、ミレイが後ろで親指を立てた。
……助ける気はないらしい。
⸻
「では、元悪役のアオトさんに伺います。
平和な今、“悪”はもう不要だと思いますか?」
「そりゃそうだな」
記者たちがざわつく。
「そう、ですか……?」
「平和に飽きた連中が出てくるまではな」
沈黙。
シャッター音。
俺はカップを置いて、ゆっくり言葉を続けた。
「“悪”ってのは、人間のストレスが形になったもんだ。
抑えこめば静かになるけど、消えるわけじゃねぇ。
お前ら、ニュースで何を探してる?」
若い記者が、思わず答える。
「……刺激、ですかね」
「それが“悪”の原料だよ」
⸻
休憩中、ミレイが苦笑して寄ってきた。
「また炎上しますよ」
「平和ボケした連中の目が覚めりゃ、それでいい」
「アオトさん、ほんと性格悪いですね」
「職業病だ」
⸻
取材が終わるころ、若い記者がひとり残った。
緊張しながら言った。
「……僕、昔ヒーローに助けられたんです。
だから、“悪”って嫌いでした。
でも今日の話、少しわかった気がします」
俺はにやっと笑った。
「“悪”は嫌われるためにある。
だからこそ、必要とされる」
記者はうつむいて、それでも笑った。
「……また来ます」
「次は客として来い。インタビュー禁止な」
⸻
カメラが去り、静けさが戻る。
雨上がりの光が、カウンターを照らしていた。
俺たちは、誰かの悪であり続ける。
それが、世界を動かす“バランス”ってやつだ。
カップを磨きながら、つぶやく。
「……今日も悪役、営業中」
⸻
次回予告
第25話 悪役、謝罪会見に出る
炎上は収まらず。
元悪役、今度は“悪くない”ことを謝る羽目に――。




