第22話 悪役、ヒーロー学園で講師になる
──正義は教えられるもんじゃない。痛感するもんだ。
⸻
朝っぱらから嫌な予感がしてた。
カフェ・ヴィランの電話が鳴る時点で、ろくなことがない。
「はいこちら、元悪役の喫茶店ですが」
『アオト先生ですか!? 本日から非常勤講師の件で――』
「先生?」
俺は思わずミルを落とした。
⸻
場所は、ヒーロー育成学園。
門の上には金ピカの看板が輝いている。
“正義は未来を導く”――うるさいな。
ミレイが同行してる。
「ちゃんとスーツ着てくださいね、先生」
「その呼び方やめろって」
「非常勤講師なんですから」
俺はため息をついた。
「悪役が教壇に立つ時点で、教育は終わってる気がするんだが」
⸻
教室に入ると、20人ほどの“未来のヒーロー”たちがいた。
ピカピカの制服、真面目な目、そして――絶望的な退屈そうな顔。
「今日の特別講師は、元・悪役のアオトさんです!」
教師が紹介した瞬間、ざわめきが起きた。
「悪役!?」
「なに教えるんですか!?」
「正義の反対じゃん!」
俺は黒板にチョークで大きく書いた。
【正義の敵=現実】
静寂。
⸻
「お前ら、“悪”って聞くと何を思い浮かべる?」
「犯罪者!」
「破壊!」
「闇!」
「違ぇよ。現実だ」
ざわっ。
俺はポケットからスマホを取り出し、ニュースアプリを開く。
“ヒーロー予算削減”
“支援物資配布遅延”
“AI治安維持部隊の誤作動”
「な、これが“悪”だ。
でも誰も殴りに行かねぇ。
なぜか? だって相手は“人間”だからな」
教室の空気が一瞬で変わる。
沈黙のあと、ひとりの女子学生が手を挙げた。
「じゃあ……ヒーローって、何のために戦うんですか?」
俺は少し笑って言った。
「俺がそれ聞きたいくらいだ」
⸻
放課後。
ミレイが笑いながら言った。
「生徒たち、かなり考え込んでましたね」
「教育ってのはそういうもんだろ。
痛みを知らない正義なんて、ただのセリフだ」
カフェに戻る途中、空がオレンジに染まってた。
ヒーローの卵たちは、明日も“正義”を信じようとするだろう。
そのままでいい。痛みを知るまでは。
――そしてその痛みを、俺が教える。
⸻
次回予告
第23話 悪役、昔の相棒と再会する
喫茶店に現れた懐かしい影。
かつてアオトと肩を並べた“悪”が、今はヒーローを名乗っていた――。




