第21話 悪役、ヒーローの再就職を手伝う
──正義に職歴なんて関係あるのか?
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朝。
カフェ・ヴィランのドアを開けると、張り紙がひとつ増えていた。
【ヒーロー再就職相談会 本日開催】
相談無料/履歴書不要/悪役面接官あり
……俺の知らない間に何のイベントが始まってるんだ。
カウンターの奥で、ミレイがスマホを片手に言った。
「SNSでバズってましたよ。“悪役の方が人間味ある”って。」
「ほめられてる気がしねぇ。」
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昼には、カフェがぎゅうぎゅうになった。
“元ヒーロー”たちが、やたら神妙な顔で列を作ってる。
名札を見ると、どっかで聞いたような名前ばかり。
「……お前、前に俺のアジト爆破したやつじゃねぇか。」
「すみません!あのときは指示で……!」
罪悪感の嵐。
俺はため息をつきながら面接表を取り上げた。
「で? 志望動機は?」
「えっと……正義が、なくなったから……」
静まる室内。
ああ、こいつらは“職”じゃなくて“意味”を探してるんだ。
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「ヒーローの仕事ってのはな、
“守る”じゃなくて“選ぶ”ことだ。」
俺はそう言いながら、コーヒーを差し出す。
「もう守る相手がいないなら、自分を守れ。
戦う代わりに、生き残れ。」
彼は涙ぐみながらうなずいた。
「……ありがとうございます、アオトさん。」
「やめろ、その呼び方はくすぐってぇ。」
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夕方。
面接がすべて終わったあと、ミレイが言った。
「なんだかんだで、みんな笑顔でしたね。」
「そりゃそうだ。悪役に説教されたら、もう底だもん。」
カウンター越しに、コーヒーを一口。
苦味がやけにやさしかった。
正義も悪も、どっちも職業じゃなくて“居場所”なんだ。
人間は、どっち側に立っても迷う生き物だ。
俺は空を見上げ、ぽつりと呟いた。
「――ヒーローも、ちゃんと生きてりゃそれでいい。」
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次回予告
第22話 悪役、ヒーロー学園で講師になる
平和な時代に育つ“正義見習い”たち。
そこに呼ばれた非常勤講師――職業:元悪役。




