番外編 悪役、最後の戦い!
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荒れ果てた街。
煙が立ち込め、瓦礫の山をヒーローたちが走り抜ける――
その中心で、ブラック・アオトンは静かに立っていた。
「……ロボット軍団か。」
「残念だったな。俺は今日、悪役の仕事を全うする。」
敵は、超ヒーローAI――
正義のために開発された自律戦闘兵集団6体。
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ミレイの声が無線で響く。
「先輩、無茶ですよ!数が多すぎます!」
「数じゃねぇ。見せ方だ。」
アオトは両腕を広げ、冷静に敵を観察する。
「正義が全てを支配するなら、悪が演出を決める!」
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戦闘開始。
AIの光線、強化装甲、正義の拳――
だがアオトは最小限の動きで翻弄。
街の破壊もほとんどなし。
「悪役の極意――人を傷つけず、ヒーローのショウを作る!」
ヒーローたちの叫びも、煙と光で“演出効果”に早変わり。
観客の市民たちが、叫び声と光の乱舞に拍手を送る。
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決着――
最後の1体が崩れ落ちると、空から紙吹雪と照明が舞い落ちる。
街は破壊されず、人々は拍手喝采。
ミレイが笑いながら駆け寄る。
「先輩……今の、戦いじゃなくてヒーローショウでしたよね?」
「まぁな。人を救うのも大事だが、見せ方も大事だ。」
アオトはマントを整え、空を見上げる。
「……悪役は、劇場型に動くのも仕事のうちだ。」
市民たちはSNSで拡散。
“悪役が演出するヒーローショウ”として伝説になる。
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その日から――
アオトは街の片隅でカフェを再開。
ヒーローたちはまだ増えすぎているが、誰もが笑顔。
街の空気は平和そのもの。
――こうして、俺の最後の戦いは終わった。
でも舞台裏では、まだ悪が仕切ってるんだぜ。
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カフェ・ヴィランの午後。
街の人々がぞろぞろと店の前を通る。
昨日の“悪役演出ヒーローショウ”の話題で持ちきりだ。
「いやー、あの黒い人、かっこよかったなぁ!」
「光線と爆煙の演出、映画より迫力あった!」
「でも、悪役なのに誰も怪我してないってすごくない?」
アオトはカウンターで缶コーヒーを開け、眉をひそめる。
「……褒めすぎだ。悪役なのに、称賛されやがって。」
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ミレイが横から小声でツッコむ。
「先輩、でも昨日の戦い、確かに“誰も死ななかった”って意味では、悪役の勝利ですよね。」
「皮肉な勝利だな。俺の悪行は、演出に置き換えられたってわけだ。」
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街の子どもたちがカフェの窓越しに手を振る。
「アオトおじさん!昨日のヒーローショウ、最高だったよ!」
「ヒーローの名前出せよ、俺は悪役だぞ!」
「でも、かっこよかった!」
アオトは小さく苦笑い。
「……俺の仕事、いつの間にかショウ化してやがった。」
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その日の夜。
カフェの外には、新聞とSNSのスクリーンショットが散乱している。
見出しにはこう書かれていた。
『悪役演出のヒーローショウ、街に平和と笑いをもたらす』
ミレイがため息をつく。
「先輩……正義でも悪でも、結局人気者ですね。」
「困ったもんだ。悪役なのに、評価されちまった。」
「でも、これでカフェも繁盛しますね!」
「それは認める。」
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アオトは夜空を見上げ、缶コーヒーを一口。
「……正義は派手に、悪は静かに――それが、悪役の流儀だ。」
街の灯りが揺れる。
そして、今日も“元・悪役”の伝説は、静かに広がっていく。
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次回:
第19話「悪役、卒業式に呼ばれる」
「“正義の未来”に招かれた悪の男――教壇で語るのは、皮肉か、それとも祈りか。」




