第18話 悪役、未来を語る少年と出会う
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午後のカフェ・ヴィラン。
店内は珍しく静かだった。
アオトは新聞を広げて、ため息をひとつ。
『元ヒーロー・ブルー・バースト、復帰』
「……まったく。助けた覚えはないのに、勝手に立ち直りやがって。」
カウンターの向こうでミレイがくすっと笑う。
「でも、いいことじゃないですか。」
「いいことだが、悪役的には“営業妨害”だ。」
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そこに、ドアが開いた。
中学生くらいの少年が入ってくる。
ボサボサの髪に、ヒーローマークのついた古いTシャツ。
「……ここ、“悪役の店”って本当ですか?」
「“だった”な。今はコーヒー屋だ。」
「ぼく、ヒーローになりたいんです。」
アオト、目を細める。
「物騒な夢だな。最近は免許制だぞ。」
「それでも、やりたいんです。
でも……みんな、『もうヒーローの時代は終わった』って言うから。」
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ミレイが少年にホットミルクを出す。
「先輩、こういうの、好きでしょ?」
「お前なぁ……。悪役に教育頼むな。」
アオトはカップを磨きながら、静かに言った。
「ヒーローの時代が終わったっていうのは、悪が減ったからだ。
だが、“守りたい”って気持ちは、時代が変わっても残る。
それを信じて動ける奴を――
俺は、まだ“ヒーロー”って呼ぶよ。」
少年の目が輝く。
「本当ですか!?」
「本当だ。……ただし、条件がある。」
「な、なんですか?」
「正義を語る前に、人の弱さを見とけ。
それができねぇヒーローは、ただの看板だ。」
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夕暮れ。
少年は頭を下げて帰っていった。
ミレイがカウンター越しに笑う。
「いいこと言いますね、先輩。」
「悪役の名言は無料サービスだ。」
彼は窓の外を見つめた。
遠ざかる少年の背中。
そして、街灯に照らされる看板――
《CAFE VILLAIN》
「……悪役の仕事は、“希望”を拾うことかもな。」
ミレイがそっと呟く。
「ヒーローより、優しいですよ。」
「それは褒め言葉として受け取っとく。」
アオトはコーヒーをすすり、
その苦さに微笑んだ。
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次回:
特別編 「悪役、最後の戦い!」
「最終決戦――それは、“見せ物”と“本音”の境界線。」




