第17話 悪役、失われたヒーローを探す
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昼下がりのカフェ・ヴィラン。
アオトがエスプレッソマシンと格闘していると、ミレイが封筒を持ってきた。
「先輩、これ……差出人、“ブルー・バースト”って書いてありますけど?」
「……マジか。あの青いの、まだ生きてたか。」
「知り合いです?」
「いや、昔の職場仲間だ。“世界を救う”とか本気で言ってた痛い奴。」
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夜。
アオトは封筒を開けた。中には一枚の紙。
『俺はもう、誰も救えない。』
それだけ。
アオトは眉をひそめ、コーヒーをすすった。
「……らしいな。救いすぎて、自分の首しめたタイプだ。」
ミレイが心配そうに覗きこむ。
「会いに行くんですか?」
「まぁ、悪役にもたまには慰問の義務がある。」
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翌日。
アオトは郊外の廃ビルを訪ねた。
錆びた扉の向こうに、薄暗い部屋。
そこにいたのは――
青いスーツの残骸をまとい、ぼさぼさの頭で座り込む男。
「……アオトか。」
「よお、ブルー。正義の残骸、元気そうじゃねぇか。」
「放っといてくれ。もうヒーローなんかやめた。」
「そう言う奴に限って、まだヒーロー名で荷物送ってくるんだよ。」
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二人は缶コーヒーを開け、無言のまま屋上へ。
夕焼けが街を染めていた。
「……俺さ、もう誰かを助けるのが怖いんだ。」
ブルー・バーストがぼそりと漏らす。
「助けても、次の日には別の誰かが泣いてる。
意味なんて、あるのか?」
アオトは煙草をくわえ、
「意味?そんなもん、“やった側”が決めるもんじゃねぇ。
“助かった奴”が勝手に決めるんだ。」
「……お前、悪役のくせにいいこと言うな。」
「悪役だから言えるんだよ。俺らは、“誰かの正義の反射”で生きてる。」
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沈黙。
風が吹き抜ける。
アオトは立ち上がり、マントをひらめかせた。
「なぁブルー。俺も昔、正義を嫌ってたけどよ。
今はちょっとだけ、憎めなくなってんだ。」
「……へぇ、成長したな。」
「いや、老けただけだ。」
アオトは缶コーヒーを放り投げ、
「じゃあな。立ち直るか沈むかは、お前次第だ。」
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数日後。
ニュース速報。
“元ヒーロー、火災現場で市民を救助”
ミレイがテレビを見ながら言う。
「これって……ブルー・バースト、ですよね?」
「そうだな。
ヒーローってのはな、やめたって言いながら、
また立ち上がるバカなんだよ。」
ミレイが微笑む。
「じゃあ、悪役は?」
「悪役は、そのバカを見届ける係だ。」
アオトはコーヒーをすすり、苦笑い。
「……今日も、苦ぇな。」
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次回:
第18話「悪役、未来を語る少年と出会う」
「“正義って何?”と聞く少年に、悪役は答える――『コーヒーより苦いものさ』」




