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『職業:悪役(たまに正義の相談役)』   作者: よしお


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第16話 悪役、街の小さな事件を解決する




午後六時。

アオトはカウンターのコップを拭きながら、外のざわめきを聞いていた。


「……なんか、外うるさくない?」

ミレイが顔を上げる。

店の前では、近所の子どもと商店街のおばあちゃんが言い争っていた。


「ボク、盗ってないよ!」

「じゃあこの財布、どうしてあんたのカバンから出てきたんだい!」


一触即発。

正義のヒーローも、警察もいない。

――ただ、“悪役”がそこにいた。



アオトはゆっくり外に出た。

「まあまあ、落ち着けって。正義の代行はコーヒー淹れてからな。」


「アオトさん、これは子どもが盗んだんですよ!」

「おばあちゃん、その子、財布見つけたんじゃないのか?」

「見つけただけなら、どうして持ってるんです!」

「……拾って、届けようとしたけど、タイミング逃したんじゃねぇの?」


子どもは泣きそうな顔でうなずいた。

「……だって、怒られるかもって思って……」


アオトはしゃがみ、目線を合わせる。

「悪いことをした時に一番悪いのは、黙ることだ。

 でもな、“怖い”って思うのは悪じゃない。人間だ。」


おばあちゃんがはっとする。

「……ごめんね、疑って。」

子どもが涙をこぼして笑った。

「いいよ。もう大丈夫。」



カフェに戻る途中、ミレイが笑いをこらえて言った。

「……また正義っぽいことしてますよ。」

「してねぇよ。俺は“場の苦味”を整えただけだ。」

「苦味の整備士ですか?」

「そうだ。世界が甘すぎると、みんな喧嘩する。ちょっと苦くしてやるのが悪役の役目だ。」



夜。

商店街の人たちが「ありがとね、アオトさん」と差し入れを持ってきた。

「こいつは……“ヒーロー饅頭”?」

「うちの孫がヒーロー好きでね。あんたにも食べてほしくて。」

「……皮肉な名前だな。」

「でも、美味しいですよ。」


アオトは一口食べて、笑った。

「うん、悪くない。

 ――ヒーローの味が、意外と苦い。」



夜風の中、カフェの灯りが消える。

ミレイが尋ねる。

「先輩。今日みたいな小さい事件、放っておけばいいのに、なんで動くんですか?」

アオトは少し考えてから答えた。


「正義が気づかない場所に、悪がいないと世界は回らねぇからだ。」


缶コーヒーを開ける音が、静かな夜に響いた。



次回:

第17話「悪役、失われたヒーローを探す」


「かつての仲間(※職場)、正義に疲れた男――悪役が歩く、心の再起動。」


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