第15話 悪役、カフェでヒーローたちの午後3時
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「いらっしゃいませ~! 本日のおすすめは“漆黒ブレンド”、罪深いほどに苦いぜ。」
カフェ・ヴィラン――
街の片隅にある、元悪役店長の店は今日も満席。
ヒーローたちが午後の休憩を取りに集まってくる。
なぜか、誰も「悪役がいる!」とは言わない。
もう、ここでは“日常の一部”になってしまったのだ。
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「アオト先輩、今日も忙しそうですね。」
ミレイがカウンター越しに笑う。
「まあな。正義の人々は、平和すぎてヒマらしい。」
「平和すぎてヒマ……?」
「そう。ヒーローは事件がなくてもストレス溜めるから、カフェで休む必要がある。」
「……皮肉な世界だな。」
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奥の席では、スカイ・ノヴァとセイナがコーヒー片手に談笑中。
「ねえ、このコーヒー、やっぱりちょっと苦いよね。」
「悪役ブレンドは苦味が命らしい。」
「でも、この苦さがクセになるのはなぜ……?」
「それは、人生も社会も、甘すぎるとつまらないからだ、と」
子どもたちが壁に貼られた「悪役の心得」を見てクスクス笑う。
1.正義が暴走したら止めろ
2.苦いコーヒーで目を覚ませ
3.微笑みながら毒舌を放て
「……相変わらず先生だな。」
ミレイが小声でつぶやく。
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午後3時。
窓から差し込む光の中、アオトはふと外を見た。
正義の看板、ヒーロー広告、平和そうに歩く市民たち。
「……平和な日常ってやつは、皮肉だらけでも面白いな。」
そこへ、常連ヒーローがひょこっと顔を出す。
「アオト、今日も一杯くれよ。」
「了解。罪深く苦い一杯、特製悪ブレンド。」
彼らは笑い、コーヒーを飲む。
それぞれの正義と、ちょっとの悪。
午後のひととき――街の平和の、小さな裏方は、ここにあった。
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閉店後。
ミレイが片付けを終え、缶コーヒーを渡す。
「先輩、今日も“苦味担当”お疲れさまです。」
「苦味担当か……まあ、俺の仕事は平和の味付けだ。」
「……皮肉も忘れずに?」
「それがないと、世界は甘すぎて飽きる。」
風がカフェの看板を揺らし、夜の街に灯りがともる。
ブラック・アオトンは小さく笑った。
――世界が変わっても、日常の皮肉と苦味は、まだまだ俺の仕事だ。
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次回:
第16話「悪役、街の小さな事件を解決する」
「悪役カフェ店長が、ちょっとした事件に首を突っ込む――正義は来ない、悪が行く!」




