第12話 悪役の休日、街のボランティアに参加する
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「おはようございますー! 今日はゴミ拾いボランティアでーす!」
朝の商店街に、爽やかな声が響く。
黄色いビブス、笑顔満点の参加者たち――
その中でひとりだけ、全身黒のマントとサングラス。
そう、俺だ。ブラック・アオトン。
悪役、休日返上でボランティア中である。
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「アオト先輩、それ完全に浮いてますよ。」
ミレイが笑いながらゴミ袋を持ってくる。
「ヒーローの皆さん、“悪役の参加歓迎!”ってポスター出してたんですよ。」
「……皮肉かジョークか分からん。」
「どっちもだと思います!」
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商店街を歩くと、子どもが指をさした。
「ママ、あの人悪い人だ!」
母親が慌てて頭を下げる。
「ち、違うのよ!この人は“改心した悪い人”なの!」
「改心……したの?」
俺はゴミを拾いながら答えた。
「いや、疲れただけだ。」
「……?」
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隣ではヒーロー《スカイ・ノヴァ》が、ぎこちなく拾い作業をしている。
例の裁判以来、彼は“社会奉仕ヒーロー”として活動中だ。
「アオト……その節は、すまなかった。」
「気にすんな。俺もお前を一発くらい殴ったしな。」
「二発だ。」
「数えるな。」
2人の間に妙な空気が流れる。
周囲のスタッフがそわそわと見守る中、
ミレイが手を叩いた。
「はいはい! おふたりさん、口より手を動かしてください!」
「はいはい。」
「了解。」
……まさか“ヒーローと悪役が一緒にゴミ拾い”なんて時代が来るとはな。
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昼休憩。
公園のベンチに腰を下ろすと、通りすがりの老人が話しかけてきた。
「お兄さんたち、昔は敵同士だったんだろ?」
「ああ。そうだ。」
「今は仲良くやってるんだなぁ。」
「まあ……掃除くらいは一緒にできるさ。」
老人は笑って言った。
「悪も正義も、落ちてるゴミの前じゃ平等だよ。」
……それ、いい台詞だな。
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午後の作業中。
SNS中継のカメラが近づいてくる。
レポーターが笑顔で言った。
「“悪役も社会貢献!”が今話題です!ブラック・アオトンさん、一言どうぞ!」
「んー……まあ、善人ばっかだと街が甘ったるいだろ?」
「え、えっと……つまり?」
「俺は苦味担当だ。」
――配信コメント欄、爆伸び。
《#悪役ボランティア》《#苦味担当》《#正義に飽きたら彼に頼め》
……やれやれ。
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作業が終わるころ、スカイ・ノヴァが空を見上げて言った。
「なあ、アオト。もし次に“悪”を演じるときが来たら、どうする?」
「多分、演じるさ。
でも――今よりもう少し、“優しい悪”でいく。」
「優しい悪?」
「正義が暴走しないための、適度な毒。
社会ってやつは、それくらいがちょうどいい。」
ミレイが横からニヤッと笑う。
「その毒、薄めのラテにして出しましょうか?」
「やめろ、それまたバズる。」
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夕暮れ。
街はオレンジ色に染まり、アオトは拾い終えた袋を肩に担いだ。
ヒーローも悪役も、今日だけは同じ汗をかいている。
彼は空に向かって、ぽつりとつぶやいた。
「世界ってのは、誰かが汚すから面白い。
でも――誰かが拾うから、まだ続けられる。」
風が吹いて、マントが静かに揺れた。
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次回:
第13話「悪役、子どもたちのヒーロー教室で特別講師になる」
「“悪の心得を学ぼう!”――先生、正義より説得力あるってどういうことですか!?」




