第11話 ヒーロー裁判所、悪役が証人席に立つ
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「証人、ブラック・アオトン。」
名を呼ばれた瞬間、法廷の空気が変わった。
ざわめき、閃光、フラッシュ。
“悪役”が証言台に立つ――それだけでニュースになる時代だ。
俺はゆっくり席に着く。
目の前には、国の象徴《中央ヒーロー裁判所》の紋章。
罪を裁くのは法じゃない、“正義”だ。
……皮肉な話だよな。
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検察側(もちろんヒーロー出身)がマイクを取る。
「被告は任務中、民間区域を爆破。
多数の市民が負傷しました。あなたは現場にいた、そうですね?」
「いた。」
「では、爆破は悪役側の攻撃だったと証言できますか?」
「できない。」
法廷がざわつく。
「……どういう意味だ?」
「爆破したのはヒーロー本人だ。俺は見てた。
“悪を討つためなら多少の犠牲は仕方ない”って言ってな。」
静寂。
傍聴席のヒーローたちが、一斉に息を呑む。
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裁判長が口を開いた。
「証人、それは事実ですか?」
「録音もある。」
俺は端末を起動し、音声を流す。
『ここで止めなきゃ、正義が腐る!』
『待て、民間人が――』
『構うな、悪は悪だ!』
爆音。悲鳴。沈黙。
法廷中の空気が、痛いほど冷たくなる。
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「……あなたはなぜ、そんな記録を残した?」
「俺が“悪役”だからだ。」
検察が眉をひそめる。
「どういう理屈だ。」
「正義の人間は、自分を信じすぎる。
だから、俺みたいな悪役がいなきゃ“歯止め”が効かねぇんだよ。」
傍聴席の奥で、ミレイが小さく頷いた。
――あの時、彼女は現場で負傷者の救助をしていた。
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検察官がなおも食い下がる。
「あなたは悪だ。正義を批判する資格など――」
「悪だから言えるんだよ。」
俺はマイクを握りしめた。
「正義が絶対なら、誰も疑わねぇ。
疑わなくなった時、正義は“狂信”になる。
……その証拠が、今日ここに座ってるだろ。」
被告席のスカイ・ノヴァが、拳を握りしめていた。
悔しさ、怒り、そして――迷い。
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退廷後。
外に出ると、夜の空気がやけに澄んでいた。
記者たちのフラッシュを避けながら、アオトは呟く。
「……結局、悪役の出番ってのは、正義が過ぎた時なんだな。」
ミレイが横で笑う。
「それ、なんか皮肉じゃないですか?」
「皮肉じゃなくて、現実だよ。」
「でもさ、今日のアオト先輩、かっこよかったですよ。」
「やめろ。悪役が褒められるとやりづらい。」
彼女がふっと笑って言った。
「――じゃあ、悪役ラテでも飲みにいきましょうか。」
俺は頷いて、歩き出す。
夜の街は、正義と悪のネオンで同じ色に染まっていた。
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“正義の証言”より、“悪の沈黙”のほうが、時に重い。
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次回:
第12話「悪役の休日、街のボランティアに参加する」
「“悪が手伝うと募金が増える”!? 社会が求めたのは偽善でも善でもなく――矛盾そのものだった。」




