表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『職業:悪役(たまに正義の相談役)』   作者: よしお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

101/102

番外編 悪役、年末に店を閉める



──終わりくらい、ちゃんと片付ける。



十二月三十一日、夕方。


【カフェ・ヴィラン】のシャッターは、珍しく下りていた。

張り紙は一枚。


《本日休業》


「……ほんとに閉めちゃいましたね。」


ミレイが雑巾を手に、少しだけ不安そうに言う。


「一年に一回くらい、

 悪役にも“閉店理由”が要る。」


「年末だから、ですか?」


「掃除するからだ。」



店内は、思ったより汚れていた。


棚の裏。

冷蔵庫の下。

カウンターの隅。


「……こんなとこ、いつ汚れたんですか?」


「大体な、

 面倒な相談が来た日だ。」


「覚えてるんですね……」


「覚えてねぇ。

 汚れだけ残る。」



二人で黙々と掃除する。


音は、

バケツの水音と、

布が床を擦る音だけ。


「マスター。」


「なんだ。」


「今年、一番大変だったのって何です?」


俺は少し考える。


「……平和だった日が、

 案外しんどかった。」


「え?」


「事件がないと、

 悪役は暇を持て余す。」


「贅沢な悩みですね。」


「そうでもねぇ。」



夜。


ゴミ袋が店の外に積まれる。

一年分の、どうでもいい残骸。


「……すっきりしましたね。」


「ああ。」


「心も?」


「それは無理だ。」



店内に戻ると、

ミレイがラジオをつける。


『まもなくカウントダウンです――』


数字が減っていく声。


「カウントダウン、聞くんですね。」


「掃除終わったからな。」


「意味あります?」


「ない。」


即答。



二人で、

カウンターに腰を下ろす。


コーヒーは飲まない。

もう片付けた。


『……三、二、一――』


外で、

遠くの歓声が上がる。


「……年、変わりましたね。」


「ああ。」


「何か言わないんですか?」


「言うことは一つだ。」


俺は言う。


「また一年、

 何も終わらなかった。」



ミレイが笑う。


「それ、悪役っぽいですね。」


「褒めてんのか?」


「一応。」



外で、

除夜の鐘が鳴り始める。


一つ。

二つ。


「願い事、しないんですか?」


「願い事は、

 掃除しても減らねぇ。」


「……確かに。」



シャッターを下ろす前、

俺は店内を一度だけ見回した。


綺麗になった床。

整った棚。

何も変わらないカウンター。


「……よし。」


「何がです?」


「悪役は、

 ちゃんと年を越した。」



──年末。


店を閉め、

汚れを片付け、

数字を数える。


それだけでいい。


悪役にとっての“区切り”は、

いつもそんなもんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ