第1話 ヒーローだらけの街で、俺は“悪役”を買って出た。
「……またかよ。今日で何人目だ、ヒーロー登録者。」
ニュースアプリのランキングには、今日も“新人ヒーロー”の名前がずらりと並んでいた。
《正義ポイント》だの、《救助率》だの、SNSのフォロワー数と変わらないノリで、みんなが“ヒーロー”を名乗っている。
しかも、問題はその数じゃない。
――倒す相手(怪人)が、いないのだ。
「昨日も交通整備手伝っただけで、Sランクヒーローが10人もニュースに出てたぞ……」
隣でコンビニのバイト仲間のヤマダがため息をつく。
「ま、平和はいいことだろ?」
「いや、平和っていうか……過剰供給っていうか……」
レジ前のモニターには、昼のニュースが流れている。
『本日もヒーローによる“過剰防衛トラブル”が発生しました! 路上で交通整理していた一般人を怪人と誤認――』
「……あーあ、またか。」
誰もが“ヒーロー”になりたがる時代。
でも、誰も“悪役”になりたがらない。
そのバランスが、完全に壊れていた。
そんな中、俺は決めたのだ。
「やっぱり、俺が“悪役”を続けるしかないじゃん。」
怪人が減りすぎた世界で、“悪”は希少種。
――そして今、俺はその“希少職”で生活している。
「職業:自営業(※悪役)(※元•本物の怪人)」
⸻
ヤマダが呆れ顔で言う。
「なあアオト、お前さ。なんでわざわざ“怪人役”なんか始めたんだよ。」
「需要があるからだろ。今、街でいちばん足りてない職種だぞ?」
「いやそういう話じゃ――」
その瞬間、スマホが震えた。
《依頼:明日15時 ステージショウ“正義の祭典”にて悪役出演希望》
「……ほら、依頼来た。」
俺はスマホを掲げて笑う。
“ヒーロー社会”を維持するために、俺は今日も“悪”を演じる。
怪人が可哀想なら、せめて俺が代わりに殴られてやるさ。
次回:
第2話「悪役にも、労災は出るらしい」




