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☆88☆
虹祭学園の昼休み。
屋上のプールサイドに座り込んだ俺は、金網に半ば寄りかかって立つ少女に向かい、
「どうやら調子は良さそうだな、シアロン。能力も健在かい?」
シアロンがジロッと俺をにらみ、
「身体も能力も元のままだ。絶対復元能力というのは、便利な能力だな。自分も他人も、ほぼ、不死身ではないか」
俺は凛華を思い出し、
「そうでもないさ。ところで、お前にコイツをやるよ。今の俺には必要がない物だからな」
言うなり俺はシアロンに炎のルビーを投げて渡す。
「奴の元に戻るもよし、自分の物にするも良し、お前さんに任せるわ」
シアロンが呆れたように、
「いまさら、あのお方の元に戻れるわけがなかろう。それにワタクシ様は、今は、宝石よりも」
シアロンが口籠り、ジッと俺を見つめる。
俺は、
「宝石より、何だよ?」
シアロンが顔を赤らめ、
「何でもないわ!」
そう言って炎のルビーを投げ返す。おいおい!
俺は、
「しゃあないな、じゃあ烈火の親父にでも、こっそり返しておくか」
俺がそう呟くとシアロンがボソッと、
「今は、宝石よりも、大切な物があるのだ。だから、そいつはもう、いらぬ!」
俺は、
「大切な物って、いったい何の事だよ?」
俺が問うとシアロンは目をそらし、
「きっ、貴様が知る必要はない! が、必要な時がきたら、ワタクシ様が、じきじきに教えてしんぜよう!」
「へいへい」
俺の生返事にシアロンが目をむき、
「なっ、貴様! 真剣に聞いてないのか!?」
「俺にもあるんだせ、シアロン。
宝石よりも眩しい、愛する人が。
その人をこの手に取り戻すまで、俺は絶対に、あきらめない!」
シアロンが寂しげな微笑を浮かべる。
何か、変な事を言っただろうか?
爽やかな風が流れ、
水面は光を反射してキラキラ光っている。
俺はプールサイドに仰向けに寝っ転がって、頭の下で両手を組むと、手マクラにした。
昼休みはどこまでも平和だった。
☆おわり☆




