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   ☆86☆


 あのお方はおっしゃいました。

「貴様はなかなか見どころがある娘だ。ワシの元で働かぬか?」

 ワタクシは恐怖に身をすくませながら、

「こ、この、事態は、あ、あなた様が起こした事で?」

「無論だ。して、返答やいかに?」

「も、もちろん、否やなどありませんわ。すべて、あなた様にしたがいます」

 あのお方はフムと頷き、

「いいだろう。

 貴様に液状化の能力を与えよう。

 この能力を使えば、世界中至る所、入れぬ所はなくなる。

 貴様は神出鬼没、変幻自在の大怪盗となれよう。

 好きな時に、好きなだけ、好きな宝石を盗むがよい」

「こ、この身に余る有り難き幸せ。ですが、なぜ、ワタクシにそのような力をくださるのですか?」

 一瞬、あのお方の口角の端がつり上がったかのように見えました。

「一つ。その能力を使って、やってもらいたい事がある」

「それはいったい? どのような事でございましょうか?」

「そなたに、炎のルビーを盗み出して欲しいのだ」

「その、液状化の能力があれば造作もない事でしょうが」

「ワシがなぜそれを望むのか? か。それはな、美しい花嫁には、それに相応しい指輪が必要だからだ」

 なぜ、ご自分で取りに行かないのですか? 

 とは聞けませんでした。

 あのお方が間髪入れずに仰ったのです。

「かの世界にはアールという無法者がいる。

 見かけたら即刻、殺すのだ。

 奴もまた、炎のルビーを狙っておる。ゆめゆめ用心を怠るなっ!」

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