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すべては貧乏が原因でしたわ。
しかも、家は見栄っ張りな貧乏貴族。
ワタクシはそんなアンビバレンツな環境で育ったのです。
親は貧乏貴族にもかかわらず、
舞踏会には目がなくって、
必ずワタクシも同伴しました。
舞踏会が嫌いだとは申しません。
華やかな会場。
着飾った美しい紳士淑女。
素晴らしい食べ物。
本当にすべての物がキラキラと輝いていて、中でも女性が身につける宝石のたぐいは、眩いばかりに美しく光り輝き、貧乏貴族のワタクシにとって、それがどれほど縁遠い、手の届かない、雲の上の輝きであったことか!
着古したドレスに、わずかばかりの、ささやかな装飾品。
それが、ワタクシの全てでした。
そんなある日。
地方からいらした豪族のお貴族様が舞踏会に参加しました。
目が潰れるんじゃないかと思うほど、煌めく宝石を、あらん限り、ふんだんにあしらったドレスを着たお貴族様は、まるで歩く移動宝石店です。ですが、
そのお貴族様は、ワタクシの想像を絶する凄まじい、お年寄りだったのです! まるで、
今にも死にそうな毛羽先立ったニワトリを思わせる、その婆さんに、ワタクシは激しい憤りを感じました。
なぜワタクシのように若くて美しい美少女が、当時のワタクシは社交界デビューしたばかりの十五歳になりたての、それはそれは初々しい美少女でした。
神様は不公平です!
こんなお婆さんに、使い切れないほどの富を与えながら、ワタクシには何一つ与え無い。それこそ、
スズメの涙ほどのだ装飾品だけです。
神様は不公平です!
ワタクシが怒りに我を忘れて婆さんを見ていると、舞踏会場から少し離れた、スミの椅子に座っていました。そして、
コックリ、コックリと居眠りをしていたのです。
チャンス到来!
その時、ワタクシの心に恐ろしいほどの魔が差し、
その干からびた骨と皮だけの指先から、
たくさん嵌めている指輪の中から、一つぐらい良いじゃないかと、たった一つだけ盗んだのです。
でも、悪い事は出来ません。
この盗難事件はすぐに発覚し、
ワタクシは逮捕されました。
裁判から判決まで一年。
ワタクシは死刑になりました。
斬首の刑、
当日、
ワタクシは十六歳になったばかりでした。




