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☆77☆
気がついたら俺は自分のベッドの中で寝ていた。
「凜華!」
俺は叫ぶなり跳ね起き、
怪盗アール姿に着替え、
屋根裏に隠した小型グライダーに乗り込み、
改装した屋根を開き、
強力なバネ仕掛けでグライダーを射出した。
さらに小型ジェットエンジンを吹かし、夜明け前の赤羽上空を駆け抜け、そのまま風に乗って、一路、
凜華の病院を目指す。
グライダーとはいえ、
上昇、下降を繰り返せば、
時速三百キロ以上は出る。
十分ちょいで病院の屋上にたどり着き、中に入って凜華の病室をさがす。
凛華はベッドで静かに寝ていた。
と思った。
が、
呼吸の吐息は聞こえず、
「おい、凛華、冗談だろ? 起きろよ。もう朝だぞ」
俺は小声でささやき、
小さな肩を揺する。
反応はない。
俺は脈を取る。
ゾッとするほど、細い手首は冷えていた。脈もない。
俺は凛華を見つめる。
俺の瞳は絶対復元能力で緑色に輝いているはずだ。
何度も何度も見つめる。
絶対復元能力を使い、
緑色に光る走査線を凛華の体に走らせる。が、
何度やっても結果は同じだった。
「なぜだ? 何で生き返らない? まだ死んで間もないはずの凛華を、何でなんだ!?」
俺は齒を食い縛る。
拳を、爪が食い込むほど硬く握りしめる。
「何で復元出来ないんだよっ!!」
能力の限界?
俺の能力の及ばない死、なのか?
俺は間違っていたのか?
スコーピオンは、
凛華に夢の世界で、
一生を体験出来るようにした。
まるで、一炊の夢のように。
だが俺は・・・。
凛華を追い詰め、
目覚めるように仕向けた。
俺が凛華を死に追いやった!!
目覚めさせなければ、
凛華は夢の中で一生を体験出来たかもしれない!
それを、俺は!
凛華を殺したのは俺だ!!!
刹那、
鮮やかな朝日が凛華を照らし出す。
その死に顔は安らかで、
すべてが満ち足りていて、
幸福そうだった。
まるで、
まだ生きているかのように、
微笑を浮かべる凛華の唇が、
「お兄ちゃんは悪くないよ。あたしは幸せだったよ」
と言っているかのように、
不可思議な錯覚を覚える。
俺は病室の扉に歩み寄り、
凛華を振り向かずにつぶやく。
「あばよ、凛華。お前さんの夢、スゲーいい夢だったぜ。それじゃ、またなっ!!!」




