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   ☆75☆


 俺はしばらく考えたすえ、

「いくら何でも強すぎるな」

 と呟く。それを聞きつけた凛華が、

「え? 何が強いの? お兄ちゃん?」

 と不思議そうに聞いてくる。

 俺は、

「いや、何でもない。さてっと、最後は雷夢だな」

 凛華がキョトンとしながら、

「でも、雷夢お姉ちゃんは、虹祭学園の生徒じゃないよね」

 すると、俺たちの背後から、

「そんなことないアル。アタシは今日から虹祭学園に転校する事になったアル」

 俺は

「やっぱり来たか、雷夢」

 雷夢がパチクリと猫のような瞳を瞬き、

「あまり驚かないアルね。もっと喜んでくれると思ったアルに」

 雷夢は、いつものチャイナ服だった。

 俺は、

「制服はどうするんだ?」

 雷夢が、

「学校でもらってから、着替えるアル。ところで、その子は誰アル?」

 雷夢が凜華を指差す。

 俺は、

「音破の友達の凛華だ」

 凜華が、

「よろしくね。雷夢お姉ちゃん」

 雷夢がジロリと凜華を見やり、

「よろしくは、いいアルけど、随分派手な格好をしているアルね」

 バクがシャシャリ出て、

「凛華は魔法少女スターリンカー、バク。

 魔法少女はみんなこういう、ド派手な衣装と、昔から決まっているバク!」

 雷夢が仰天し、

「ぬいぐるみがしゃべったアル! びっくりアル!」

 俺はとりなすように、

「まあ、詳しい話は省くが、とにかく、絶対にマルマルの話をするな」

 雷夢が不思議そうに、

「マルマルって何アル?」

 凛華もバクも目をそらす。

 俺が念を押す。

「とにかく、マルマルを頭に思い浮かべるな。これは雷夢のためなんだよ」

 悪夢と言えば、絶対に悪夢を思い浮かべるだろう。だから、今はマルマルとしか言えない。

 雷夢が、

「だから、マルマルって何アル? 竜破の言ってる事は、アタシにはサッパリ分からないアル!」

 俺は、

「人間、時には、知らないほうが幸せな時もあるんだよ」

 雷夢が、

「何か、哲学的な事を言ってるアル? そう言えば! アタシ、昨日不思議な夢を見たアル。すぐに竜破に話すつもりだったのに、すっかり忘れていたアル」

 俺は、

「そのまま忘れていれば幸せだったのにな。残念だ」

 雷夢がはしゃぎながら、

「また変なこと言ってるアル。

 ともかく、変な夢だったアルよ。

 アタシの母ちゃんが夢に出てきて、アタシを襲ってきた夢アル。

 物凄い悪夢だったアル」

 俺はブルブル震えながら、

「お前の母ちゃん、っていうのは、もしかして、スゲー若い姿だったんじゃないか?」

 雷夢がウンウンとうなずき、

「そうアル。夢に出てきた母ちゃんは、なぜか? 高校時代の制服姿だったアル」

 俺は、

「だろうなあ。いや、同じ虹祭学園の女子の制服なんだけどさ。ちょっとばかし、型が古いんだよ。間違いなく昔の制服だ」

 雷夢が不審げに、

「何を言ってるアル? まるでアタシのうしろに若い頃の母ちゃんがいるみたいアルね」

 俺は、

「いや、たぶん、その通りだよ」

 雷夢が動転する。

「えっ!」

 そう言って振り向いた雷夢が、

「かっ! かかっ! 刀華、母ちゃんアルうううっ!」

 さっき話した通り、

 古い制服を着た少女が仁王立ちしている。

 猿風雷夢の母、

 刀華だ!

「お化けみたいに驚かないでよ! 失礼にもほどがあるわねっ!」

 雷夢が、 

「何で母ちゃんが東京に来ているアル? しかも若返ってアル?」

 刀華が、

「それはね、雷夢。あんたが修行を怠けて、男とチャラチャラ遊んでいるからよ! その腐った根性を叩き直しに、香港からやって来たのよ!」

 と言い、紅蓮剣を突きつける。

 俺が、

「何で? 刀華が、烈火の紅蓮剣を持っているんだ?」

 刀華が烈火のごとく怒り、

「うるさいわね! 男のくせに、細かい事を、ゴチャゴチャ言うんじゃないわよ!」 

 雷夢がボンバーヘッドを抱え、

「昨日見た夢とまったく同じ展開アル」

 刀華の身体の輪郭が赤く輝く。

 紅蓮剣による身体強化だ。

「それじゃ、本気で行くから覚悟しなさいよ! 死んでも知らないからね! 紅蓮羅弾!」

 紅蓮剣の魔法陣から、

 炎の弾丸が次々に射出される。

 俺と雷夢が左右に別れて逃げ出した。

 凛華は空に逃げる。

 刀華が、

「逃がさないわよ!」

 校舎側の雷夢を追い、

 紅蓮剣をブンブン振り回す。

 そのたびに校舎がぶっ壊され、

 吹き飛んだ。

 刀華が、

「雷夢! 逃げてばかりじゃ、修行にならないでしょ! 

 あんたの、竜破と結婚するって気持ちは、その程度なの!?」

 雷夢がピタリと止まり、

 刀華と向き合う。

 雷夢が、

「アタシの竜破への思いは本物アル!」

 刀華が、

「信じられないわね。ただ単に修行をサボって、遊びたいだけじゃないの?」

 雷夢が憤る、

「そんな事ないアル! 本当に、竜破が好きアル!」

 刀華が腕を組み、

「なら、アタシと戦って、それを証明しなさい!」

 雷夢がボンバーベッドをかきむしり、

「うう~! 母ちゃんのわからず屋! もう母ちゃんでも許さないアル! やっつけるアル!」

 凜華が加勢しようとするが、

 俺はやめさせた。

「これは二人の問題だ。

 外野はおとなしくしようぜ」

 凜華がうなずく。

 雷夢の体が青白く明滅し、

 声高に叫ぶ、

「雷刃っ!」

 雷の刃が刀華目掛けて無数に飛んで行く。が、紅蓮剣ですべてを薙ぎ払う。

 続いて雷夢が

「雷刃剣!」

 ブォンン!

 雷の剣で刀華に斬り込む。

 刀華がそれを受ける。

 滑らかに、

 素早く。

 隙のない大剣のさばきは、

 力任せに攻め立てる烈火の剣とは、まるで性質が異なる。

 利にかなった剣術で、

 全盛期のリー・リン・チェンの華麗な剣舞を思わせる。

 刀華が余裕しゃくしゃくで、

「あんたの思いは、その程度なの雷夢!」

 負けずに雷夢が、

「むう、まだまだアル! とっておきを見せるアル!

 紙鬼神しきがみ!」

 紙で出来た小さな人形が、

 刀華を囲むように周囲を飛びかい、

「雷夢っ変化っ!」

 人形が雷夢の一声でブルンと震えたかと思うと、

 一斉に雷夢の姿に変わる。

 雷夢が叫ぶ。

「やっつけるアル!」

 七人の雷夢が刀華に襲いかかる。

 本物が一人混じっているはずだが、乱戦気味で、誰が本物か分からない。

 刀華が、

「亜人街の龍姫にでも習ったのね! でも甘い!」

 背後から迫る雷夢を一刀両断。

 紙の人形に戻る。

 刀華が、

「まず一体!」

 さらに左右からの挟み撃ちをかわし、

「紅蓮羅弾!」

 ニ体の雷夢に直撃、

 二人が、

「えっ! 熱いアル〜!」

「燃えるアル~!」

 紙に戻って燃え尽きた。

「これで三体!」

 雷夢が、

「てっ、手強いアル! みんな例の手を使うアル!」

「分かったアル!」

「任せるアル!」

「逃がさないアル!」

 残った四人が四方に飛び散り、

「「「「雷糸無限っ!!」」」」

 四方から突然放たれた無数の雷糸は避けようもなく、

 刀華がからめ捕られる。

「やったアル!」

 が、突然、雷糸が燃え上がり、

 炎の中から刀華が現れる。

 雷夢の豪雷に似た技か?

「ちょっとビックリしたけど、まだまだ甘いわね! 獄界の番人、ゲヘナス召喚!」

 刀華が紅蓮剣を地面に突き立てる。

 俺が、

「雷夢! 召喚には三分かかる! 今がチャンスだ!」

 刀華が、

「はあ? 何言ってんの? そんなに時間がかかるわけないでしょ! もし、そんな奴がいるなら、そいつは相当、修行が不足してるわね!」

 その言葉通り、瞬時に地面の魔法陣が割れ、ゲヘナスが這い出てくる。

 刀華が、

「フェード・リンク!」

 と叫び、その身体がゲヘナスに吸い込まれる。

 雷夢が、

「なっ!? 何アル、あれは!? ロ、ロボットある~~~っ!!」

 刀華が、

「どうする雷夢? こうなったら、もう万に一つも勝ち目はないわよ! それでも戦うの?」

 雷夢の瞳は揺るがない、

「アタシの気持ちは変わらないアル! アタシは最後まで戦うアル!」

 果敢に奮戦するが、ゲヘナス相手では、どうにも敵わない。

 それでも雷夢は諦めなかった。

「まだまだアル~~~っ!」

 ゲヘナスが身を引く。

 刀華が、

「どうやら、アンタの思いは本気みたいね、雷夢! その気持ちを、何があっても忘れないこと! いいわね! でないと、またアタシがアンタの根性を叩き直しにくるわよ!

 フェード・オフ!」

 ゲヘナスから飛び出した刀華の身体に、光の亀裂が走り、光の粒子となって消え去る。

 ゲヘナスも同じように消え去った。

 雷夢が、

「アタシ、本当は、竜破への気持ちを、自分でも信じてなかったのかもしれないアル。きっと、

 その気持ちの弱さが、

 母ちゃんの形になって現れたアル。でも、アタシの思いは、

 最後には母ちゃんも認めたアル。だから、

 アタシの思いは、絶対に、本、物、ア、ル」

 雷夢の身体に光の亀裂が走り、

 光の粒子となって消え去った。

「雷夢」

 俺は呟き、壊れた校舎へと向かう。

 使えそうなイスを二脚見つけて校庭に運んだ。

 俺はそれに馬乗りになり、

「凛華も座れよ」

 凛華に座るよう勧めると、

「うん」

 凜華は素直に従った。

 俺は、

「凛華が本気になれば、ゲヘナスも一撃で倒せるんじゃないか?」

 凜華が焦ったように、

「えっ? そ、そんな事ないよ~。だって、あのロボット、とっても強そうだったもん」

 俺は、

「そうか? まあ、それはともかく。そろそろ、いいんじゃないか? 凛華?」

 凜華が首をかしげ、

「えっと、何のこと?」

「もう、充分、楽しんだんじゃないかって事だよ」

 バクが、

「何を言ってるんだ竜破? サッパリ分からないバク! もっとハッキリ言うバク!」

 俺は苦笑し、

「まあ、一言で言えば、ぶっちゃけ、そろそろ俺を元の世界に戻してくれよって事だよ。

 魔法少女スターリンカーこと凛華ちゃん」

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