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☆70☆
派手な赤いドレスの女がそう言う。年は十八歳前後か?
かなり大人っぽい女だ。
女が、
「どちらにしようかな?」
女の目が妖しく細められ、
「二人一緒に決〜めたっと!」
女の身体が一瞬で四メートル近い狼。いや、
三つ首の青白い炎をまとった金色の狼。いや、
金色のケルベロスへと入れ替わる。
明らかに肉体が変化したのではなく、瞬時に切り替わったからだ。
三つ口がチロチロと蒼白い炎を吐き、急速に炎が収束する。
ビュ、ビュ、ビュンッッッ!!
青白い三本の光線が校舎を薙ぎ払い大爆発を起こす。
正確に敵を狙うというよりは、
無差別に殲滅するといった攻撃だ。
初弾は運良く避けられた。
ケルベロスが、
「我が名は、ベル・クロス。
よく避けられたね。
普通は最初の一撃で黒焦げにるんだけどね」
壊れた校舎の壁の裏にサヤが避難していた。
その横に俺は滑り込む。
「お互い悪運がいいようだな。三方向からのレーザーをかわすなんてよ」
サヤが、
「私は、まだ死ぬわけにはいかないのデス。憎っくき桃太郎を倒すまでは」
俺はニヤリと笑い、
「それじゃ、手下に手こずってる場合じゃないな」
「無論デス」
俺は、
「幻魔剣と数十本の魔剣は復元しといたぜ、サヤ。行くぜっ!」
俺は壁の右側から飛び出す。
サヤは反対の左側から飛び出した。
ベルは左右から飛び出した俺とサヤの、どちらを攻撃するか一瞬、戸迷い、当然、熱線も三つの首が闇雲に撃って、てんで当たらなかった。
が、ベルが、俺の目の前に飛び出す。巨大な図体の割に恐ろしく敏捷だ。
「お前からにするよ。仮面くん」
三つの熱線が俺に狙いをつける
熱線を発射する寸前、
ズドン!
ワルサーで口元を狙い撃つ。
ベルの厚い剛毛は弾丸など通さないが、
弾丸は炸裂し、
ベルの口を塞ぐように液体をぶちまける。
気づかず熱線を発射したベルの口内で爆発が起きる。
液体は超強力・瞬間接着剤。
口の周辺で遮られた熱線が暴発したのだ
右端の首は半分吹き飛び、
首がだらりとブラさがる。
他の熱線は暴発の衝撃で軌道が大きくそれた。
ベルが、
「なかなかやるね。ちょっと見直したよ」
まったく応えた様子がない。
そこへ魔剣が襲いかかる。
ドスドスドスッッッ!
ベルの巨体に突き刺さる。
「はっ!」
ベルが一声叫び、体を震わすと、魔剣がすべて抜け落ちる。さらに、
左端の首を切り落とそうとするサヤを熱線が貫く。
が、
熱線で開いたサヤの傷口から無数の赤い蝶が羽ばたき、それが全身に及ぶ。
幻魔剣の幻術だ。
ベルは残った二つの首をフル回転し、蝶を焼き尽くそうとするが、
蝶が二本の魔剣に変わり、
右端の首の両目を突き刺す。
まともな首は、中央のベルの首だけとなった。
ベルが、
「楽しい、楽しい! 想像以上だね!」
なおも戦意を失っていない。
戦闘狂か!?
俺が呆然としていると、
地面から顔を出した少女が、
こちらをジーッと見ながら、
「ごめんなさい、ごめんなさい。イジメないで、イジメないで、ごめんなさい!」
そう言うなり俺の足をつかんで、地面の底に引きずり込んだ。
「何いいぃっっ!」
三人目のキジか!?
暗闇の海の中のような、
明らかに地面ではない、
光りの届かない亜空間に引きずり込まれた。




