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「星図まで消えちまったか。まあ、自業自得と言えなくもないが。しかし、ちょっと気になる事があるな」
俺はバクのほうを振り向く。
バクが、
「何が気になるバク?」
「登校者の数だよ。
俺と音破、
凛華、
巡、
星図。
合わせて五人しか学校に来ていない。それに、よくよく考えると、
ここへ来るまでに、誰にも会ってないんだよ。
いったい他の連中はどうなったんだ?
あれだけの悪夢騒ぎが起きながら、誰一人駆けつけないってのは、おかしくないか?」
バクが、
「確かにおかしいバク。これはひょっとすると」
「ひょっとすると何だ?」
バクが深刻な表情で、
「ひょっとすると、最悪の事態が起きているのかもしれないバク」
俺は驚きがら、
「何なんだ? 最悪の事態ってのは?」
バクが言葉に詰まり、
「つ、つまりバクね、この世界の、ほとんどの人たちが、突然現れた悪夢とともに、みんな消滅した可能性がある。ということバク」
俺は驚愕し、
「なっ! せ、世界中の人間が、き、消え、しょ、消滅しただって!? いくらなんでも、そんなバカな事が、ありえないだろ!
そ、そんな途方もない能力が、
この世に存在するはずがない!」
バクが俺を落ち着かせるように、
「あくまで最悪の話バク。みんながみんな、悪夢と一緒に消滅したとは限らないバク」
凛華がスマホを取り出して写メを見せる。
そこには、烈火、サヤ、雷夢の三人の姿が写っている。
凛華が、
「あたしの知っている学校の人は、音破の写メで知った、
烈火お姉ちゃん、
サヤお姉ちゃん、
雷夢お姉ちゃんの三人だけど、ちゃんと学校に来てくれるかな?」
俺は思考をめぐらし、
「あの三人なら大丈夫だろう。単純だけど、変に高い能力に恵まれているから。悪夢ごときにやられはずがない」
「誰が単純なのだ! 誰が!?」
烈火がプリプリしながら喰ってかかる。
俺は、
「いや、無事でなによりだ、烈火。心配したんだぞ」
烈火が肩を怒らせ、
「心にもない事を。ドロボーの言う事は信用出来ないのだ!」
俺は、
「元ドロボーだが」
烈火が一喝する。
「一緒なのだ! ところで、悪夢にやられるとは、どういう事なのだ? あたしも昨日、変な夢を見たのだ」
俺は慌てて、
「待て待て! 悪夢について考えるな! 思い出すな! 今すぐ忘れろ! さもないと」
烈火が不思議そうに、
「さもないと何なのだ!」
「さもないと何なのだ!」
ほぼ同時に烈火の声が【二つ】聞こえた。
「え!? ま、まさか!?」
俺は自分の目を疑った。
烈火が、
「貴様いったい何者なのだ!?」
もう一人の烈火が、
「貴様こそいったい何者なのだ!? あたしの偽物め!」
「貴様こそ昨日あたしが見た悪夢に出てきた、あたしの偽物なのだ!」
「何を言うのだ貴様こそ、あたしの悪夢に出てきた偽物なのだ!」
「この嘘つき!」
「この嘘つき!」
もう、どっちが本物で、どっちが偽物か、さっぱり分からなくなった。
二人が同時に紅蓮剣を取り出し、激突する。
「こうなったら力ずくで、あたしが本物だと証明するのだ」
「何を言う、偽物の化けの皮をはいでやるのだ!」
火花を散らす紅蓮剣の斬りあい。
数十合後、
両者が距離を取り、
炎の魔弾を射出。
校門の前で数十の爆発が生じ、 二人同時に紅蓮剣を地面に刺すと、
同時に獄界神ゲヘナス召喚を開始する。
俺は、
「いい加減にやめろよ! 二人そろって消滅するぞ!」
二人の烈火が、
「望むところなのだ!」
「望むところなのだ!」
話にならない。
三分後、
ゲヘナスを召喚した二人は、
ともにゲヘナスに乗り込み、
周囲に結界を張ると、
先ほど以上の斬りあいを開始した。
ゲヘナス同士の戦いは熾烈を極めた。
やがて、
二人の烈火が、
「貴様なかなかやるではないか! 見直したのだ!」
「貴様もなかなかやるではないか! これなら、今度こそ地獄の少女道化師をやっつけられるのだ!」
「二度も逃がしてしまったからな!
一時は自分の不甲斐なさに愛想がつきたが、
こうして自分自身と戦ってみると、
やっぱりあたしは強いのだ!
という事がはっきり分かったのだ!」
「うむ! 今度こそあの悪者を捕まえるのだ! 今なら出来そうな気がするのだ!」
そう言い終えると二人ともゲヘナスから出てきて握手し、
「絶対ゲヘナスを倒すのだ!」
「絶対ゲヘナスを倒すのだ!」
と意気統合し、次の瞬間、光のヒビが入り、二人同時に光の粒子となって消え去った。




