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☆65☆
俺と凛華はいったん学校へと戻った。
人一人を完全に消滅させる能力なんて、いくら地獄の少女道化師でも持っていないだろう。
となると、やはりスコーピオン本人の能力か? しかし、
何で音破を狙ったのかが分からない?
突然、俺は閃く。
肝心な事を聞くのを忘れていた。
「そうだ! 能力と言えば、君の能力はいったい何なんだ? 突然、変身したり、飛んだり」
すると凛華に代わって、
バクと呼ばれたヌイグルミがフワフワと飛んできて、
「それはバクが説明するバク」
俺は、
「よくよく考えたら、そもそも、お前は何物なんだ? ヌイグルミの妖怪か?」
バクが激昂し、
「妖怪とは失礼バク! バクはドリームランドのプリンス、バク王子バク!」
俺は疑いの眼差しで、
「夢の国の住人が何で現実世界に来てんだよ?」
バクが大げさに嘆息し、
「ドリームランドは今、
悪の秘密結社、
アクムダンの襲撃を受けて、
大変な事になっているバク!
そして、現実世界に逃げたバクを、心の優しい、可愛い美少女、
凛華が助けてくれたバク。
しかも、ドリームランドに伝わる伝説の武器、
スター☆ステッキで魔法少女に変身し、アクムダンを撃退したバク!
凛華こそ伝説の、
魔法少女スターリンカー!
バク!」
なんか、どこかで聞いた事があるような設定だ。
俺は、
「ちょっと聞きたいんだが」
バクが尊大な態度で、
「何でも聞くバク。答えられる事なら、何でも答えるバク」
俺は、
「アクムダンて何なんだ?」
バクが、
「アクムダンは、
ドリームランドのドリーム製造装置を奪って、
悪夢を撒き散らす悪の集団バク。
現実と夢は表裏一体。
悪夢がひどくなれば、
現実世界も影響を受け、最悪、滅びるバク」
そんなまさか。
ちょっと大げさだな。
俺は、
「音破が消えたのはアクムダンが原因か?」
バクが、
「音破の夢は悪夢じゃなかったバク。アクムダンとは関係ないと思うバク」
俺はいきり立ち、
「じゃあ何で音破は消えたんだ?」
バクの目が泳ぐ。
「分からないバク。
何か、大きなイレギュラーが発生しているかもしれないバク。
もしかしたら、
アクムダンが新たな力を使ったのかもしれないバク」
俺は眉をひそめ、
「音破を戻す方法はないのか?」
バクがシレっと、
「それも分からないバク」
俺は、
「結局、肝心な事は何も分からないんだな」
バクが肩を落とし、
「力になれなくて残念バク」
そこへ巡がやって来る。
俺は、
「なんだ巡か」
巡が眉をひそめ、
「なんだ巡か、とはご挨拶ね。でも、とりあえず、これを渡しておくわ」
巡が大アルカナの、
太陽のカードを俺に渡した。
「二度ある事は、三度あるかもしれないから、お守りがわりよ」
俺は、
「そりゃ助かる。今日も、死神につき纏われているからな、たぶん」
巡がバクを見つめ、
「それで、その妖怪は何なのかしら?」
バクを指差す。
俺は、
「ドリームランドの住人。
バクだ。
アクムダンに追われていて、今は地上に逃げて来ている」
巡が不審な物を見る眼差しで、
「そう。ドリームランドの住人だからヌイグルミみたいなのね。
納得はしないけど、
理解はしたわ。それと、
あなたは凛華ちゃんじゃない? 去年、お見舞いに行ったわよね。
今日は不思議な魔法少女の格好をしているけど、病気はもういいの?」
凛華が元気よく、
「うん! バッチリ治ったよ!」
巡が、
「聞くまでもなかったわね。
魔法少女の格好で学校に来ている女の子の、具合が悪いわけがないわよね。それにしても、
魔法少女凛華ちゃん。
あなたに、あたしが昨日見た悪夢を何とかしてもらいたいわね」
俺が、
「おい巡! 今は夢の話をするな! 下手をすると」
巡が、
「何よ、たかが夢ぐらいで。
何をそんなにビビってんのよ。
まあ、でも、竜破にも見せてあげたかったわね。
身の丈六メートル近い死神が、
大鎌を振り回しながら、
あたしに襲いかかって来る悪夢を」
俺が巡の背後を指差す。
巡が門を振り返り、
「そうそう。ちょうどあんな感じの死神が。って!? ええっ!? 何で夢の中の死神が現実に現れてんのよ!?」
巡が言った通り、死神が夢の通りに襲いかかってくる。が、
「マジカル☆スターソード!」
凛華のステッキが剣へと変わり、死神の大鎌を受け止める。
「巡お姉ちゃん! 逃げて!」
言われなくても逃げ出していた。校舎の影から巡が、
「いったい何なのよアイツは!? 説明しなさい!」
俺にもよく分からないが、
「話すと長くなるんだが、
手短かに話すと、
アクムダンが悪夢を撒き散らすと、
現実世界もその影響を受けるらしい」
巡が抗議する。
「だからって、悪夢が現実化するって、おかしくない?」
俺は嘆息し、
「バクいわく、大いなるイレギュラーが発生しているらしいんだな、これが」
巡が怒りに顔を歪め、
「イレギュラーってあんたね、何とかしなさいよ!」
俺は慌てもせず、
「いや、そろそろ終わりそうだぞ」
凛華が死神との数十合に渡る斬り合いを制し、死神を吹き飛ばす。
バクが、
「今だよスターリンカー! バクの力を使って!」
バクが星形のアクセサリーをどこからともなく取り出し、
凛華に渡す。
凛華はそれをステッキに嵌め込み、
「大いなる夢の力よ! スターリンカーに無敵の加護を!
必殺!
スターライト☆シャワー!」
凛華の掛け声とともに、
巨大な星形の粒子が次々に射出され、死神に直撃する。すると、
険しかった死神の顔が和らぎ、
次の瞬間、
その姿が光りの粒子と化し、
何故か死神のヌイグルミになって校門に残った。
「あれは!」
巡が言いながら校舎から飛び出し、
「すっごい昔に無くした、あたしのヌイグルミだわ。ずっと気になっていたのよね。最近は、すっかり忘れていたけど」
俺は適当に、
「巡は忘れていても、深層心理下に、ヌイグルミに対する負い目があったんだろうな。
それが今回、悪夢という形を取って、巡を襲ったんだよ。
ま、あくまで推測だが。
ていうか、何で死神のヌイグルミなんだよ?」
巡が顔を曇らせ、
「元々は大アルカナのヌイグルミ一式が揃っていたのよ。でも、なぜか死神のヌイグルミだけ、いつの間にか無くなっていたの。でも、これで、この子の事を、はっきり思い出し、た、わ」
突然、巡の身体に光のビビが入り、光の粒子となって消え去った。
「ウソだろ! 巡まで、かよ」




