64
第六話
〜魔法少女スターリンカー〜
☆64☆
「も~っ! お兄ちゃん。
ネクタイが曲がってるじゃないっ!
だらしないんだから。
今日は音破の虹祭学園の入学式なんだよ!
音破の晴れ舞台なんだから、しっかりしてよ!
しょうがないな~。
音破が直してあげるから、ちょっとジッとしててね!」
と言って音破が俺のネクタイを直した。
俺にとっては高二の新学期。
音破にとっては高一の入学式。
モチベーションに差が出るのは仕方がない。
俺は、
「しかし、日本の桜がこんなに綺麗なもんだとは思わなかったな」
満開の桜並木の下を歩きながら俺が呟くと音破が、
「変なの。日本以外の国に住んでたみたいに聞こえるよ」
正確には異世界アヴァロンだがな。
桜並木を抜けて門をくぐると、
音破と同じ制服を着た少女が校舎に向かって歩いていた。
少女がゆっくりと振り返って、
「音、破、ちゃん?」
音破が目を丸くして、
「えっ! もしかして、
凛華ちゃん!?
凛華ちゃんなの?」
凛華がニッコリと微笑み、
「うん。凛華だよ」
音破が、
「病気はどうなったの? たしか心臓病だったよね?」
凛華が、
「もう、すっかり良くなったんだよ。編入試験も受かって、入学式に間に合ったんだよ」
音破が、
「やったじゃん! 今日からずっと一緒だね! まさか凛華ちゃんと入学式が一緒なんて思わなかったよ!」
凛華が、
「うん。本当に夢みたいだよ」
二人が喜びを分かちあう間、俺は脳内データを検索し、凛華の情報を引き出した。
フルネームは、
星月凛華。
音破の幼馴染みだが、
小学校六年生の頃、
心臓病にかかって入退院を繰り返していた。
中学三年になると病気が悪化し、ずっと入院していたはずだ。
去年、音破と一緒に、俺も見舞いに行った事がある。
時おり、星図や巡も一緒に連れて行った、という記憶があるな。
今年に入ると音破は受験。
俺は例の、烈火の事件で意識不明の重体になっていたから、
凛華の見舞いどころではかった。が、
音破は凛華とメールのやり取りを続けていた。
そういえば、こないだ烈火、サヤ、雷夢の写メを、凛華に送ったと、音破が言っていたな。
三人についての話も、かなりしていたようだ。
音破が、
「あっ! そう言えば音破ね、すっごい、良い夢を見たんだよ!
音破の背中にね、天使の羽みたいな翼が生えてね」
途端に音破の背中に天使の羽みたいな、うっすらと淡く光る翼が生えた。
マジか?
音破が、
「そうそう。ちょうどこんな感じで。って! ええっ!? ど、どういう事なの!? この翼って、なに!?」
俺は、
「まさかっ! 地獄の少女道化師の新たな能力かっ!?」
俺は音破の翼を調べる。
音破が身体を震わせ、
「くすぐったいよ、お兄ちゃん」
俺は翼から手を離し、
「まさか、感覚が通じているのか?」
音破がうなずき、
「うん。なんか、自分の意思で動かせそうな」
いきなり翼を震わせると軽く羽ばたく。すると、
フワリ、
数メートル上空まで飛び上がった。そのまま羽ばたいて旋回する。
「ウソだろ」
俺が呻くと音破が、
「凄い! 凄い! 夢で見たのと一緒だよ! もし本当に夢で見たのと一緒なら」
音破がさらに上空に上がり、
「新宿の高層ビルを飛び越えてくるよ!」
俺は慌てて、
「待てっ! 音破! 地獄の少女道化師のワナだったらどうするんだ!」
俺の叫びも虚しく、音破は飛び去ってしまった。
凛華が、
「ど、どうしよう!」
凛華も慌てる。すると、
凛華の周囲にビー玉ぐらいの光る玉が飛び回り、
凛華がその光に話しかける。
「大変だよ、バクくん! 音破ちゃんを追わないと!」
すると光が実体へと変わる。
その姿は、
翼の生えたブタのような、
鼻の短いゾウのような、
得たいの知れないヌイグルミだった。
バクと呼ばれた怪しいヌイグルミが、
「変身バク! 変身バク! 凛華ちゃん、魔法少女スターリンカーに変身バク!」
凛華がそれに応じ、
「分かったよ、バクくん!
バクバク、リンリン! リン☆リリン!
魔法少女スターリンカーになあれ!」
凛華が妙なステッキを振り回し、呪文とともに軽快なステップを踏むと突然、全身が光りだし、フリル満載の魔法少女に変身した。
何が? 何やら?
星図なら大喜びしそうだが。
凛華が、
「夜空に輝く一番星!
スター☆リンカー!」
凛華が決め台詞とポーズを決める。直後、
「行くよっ!」
一声叫んだかと思うと、
音破同様に空を飛ぶ。
とっさに俺は杭打ち銃を撃つ。
無論、足にからみ付くように。
しかし、男が一人増えたぐらいでは、凛華のスピードは変わらない。
どんどん高度が上がっていく。
凛華が、
「音破ちゃんのお兄ちゃんは地上で待っててよ」
俺は、
「そうはいかない。音破のピンチなんだ、俺も行く」
凛華が肩をすくめ、
「しょうがないなあ。バク☆バックン!」
星形のステッキを振ると、
星の粒子が俺を包み込み、
凛華と並んで飛ぶ事が出来るようになった。
凛華が、
「飛ばすよ!」
「おう!」
マッハに近い速度で都庁上空を突破。
音破の後ろ姿が見えてくる。
「音破!」
俺が叫ぶと音破が振り返り、
「あっ! お兄ちゃん! それに凛華ちゃん! 二人とも飛べるようになったんだ!」
俺が、
「音破、いい加減で戻れ! どこまで行く気だ!?」
音破がニッコリ笑い、
「せっかく夢がかなったんだもん! いつまでも、どこまでも、飛んで行くんだよ!」
次の瞬間、突然、音破の身体が光の亀裂に包まれ、直後、光の粒子となって消え去った。
「おっ、音破!? 音破あああああっ!」
俺の絶叫が虚空に虚しく響いた。




