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☆62☆
深夜の赤羽公園はサヤの術のおかげで人っ子一人いない。
ヒッソリとしていた。
赤羽公園には橋状の大きな滑り台と馬の銅像を取り巻く噴水があって、子供たちに大人気だ。
が、その滑り台を唐突に分断、
破壊した地獄の少女道化師が馬の銅像に飛び乗り、
「いい加減、ワタクシ様の炎のルビーを返せっ! 世界中の宝石はワタクシ様のモノだっ!」
グニョグニョと液状化した腕に高圧を加え射出してくる。
液状ムチが噴水を引き裂き烈火を襲う。
前回ゲヘナスのせいで酷い目にあったのを覚えていたのか、
真っ先に烈火を狙ってきた。
烈火が攻撃を避け、
「ゲヘナスをまた召喚するのだ! みんな時間を稼ぐのだ!」
雷夢が飛び出し、
「この程度の敵! アタシ一人で充分アル! 雷刃っ!」
雷の刃が地獄の少女道化師の液状ムチをカット、さらに、
「雷刃剣っ!」
ヴォンッッッ!
「はあっ!」
雷刃で地獄の少女道化師を切りつける。
剣が地獄の少女道化師の身体に触れるたびに蒸発し、感電するのか、地獄の少女道化師の動きが鈍る。
さらに、サヤが全身から射出した剣を操り、雷夢を援護する。
今回は俺の出番はなさそうだ。
地獄の少女道化師が、
「ぐぬ! こしゃくな!」
烈火のゲヘナス召喚は着々と進む。
楽勝感漂うなか、俺の靴裏震動センサーが反応する。
それも、地獄の少女道化師のいない方向から、
「烈火! うしろだ!」
俺の声に烈火が超反応、背後から襲う、もう一人の地獄の少女道化師Bの攻撃を紙一重でかわす。
本体と思われる地獄の少女道化師Aが、
「ククク、ワタクシ様の分身攻撃を上手くかわしたな。
頭の超いいワタクシ様は気づいたのさ、材料さえ揃えば、液状化した自分の分身が作れるんじゃないかってね!
結果はこの通り大成功!
ワタクシ様、最凶っ!」
俺は指先を、なおも烈火を狙う地獄の少女道化師Bに向ける。
「ファイア!」
炎を放射する。
地獄の少女道化師Bの半身が蒸発した。
「なにいいいっ! 貴様! こんな能力があったのか!」
実は能力じゃない。
スーツの背中に隠した小型ボンベから指先まで、細い管を通し、
掛け声に合わせて着火、火炎を放射する、超小型火炎放射器だ。
俺は、
「硫酸より効率が良いだろう」
地獄の少女道化師Bが歯軋りしながら、残った片腕を液状化し、俺に向かって高圧で噴射する。
俺は腕をあげ、
「シールド!」
岩をも切り裂くゲロデムの攻撃が弾ける。
「ま、まさか! そんなバカな!」
地獄の少女道化師Bが狼狽しながら金切り声をあげる。
超強化プラスチックの盾だ。
数十トンの衝撃にも耐えられる。
透明度が高いので、肉眼で見分けるのは難しい。
俺は次々に空中をジャンプ。
驚きながら見上げる地獄の少女道化師に、
「ファイア!」
さらに火炎放射。
赤羽公園に以前から密かに超強化プラスチックを設置しておいた。
それを踏み台にすれば、まるで空中を飛んでいるかのように見える。
烈火が、
「凄いのだ竜破! あたしも負けないのだ! 紅蓮弾!」
魔方陣から射出した火球が地獄の少女道化師Bにブチ当たる。
瞑想機ゲヘナスの召喚はどうした?
烈火は飽きっぽいから困る。
しかし紅蓮弾は、
「ぐおおっ! 貴様あああ!」
地獄の少女道化師Bに直撃した。
俺は地上に降り、烈火を援護する。
するとさらに靴裏センサーが反応する。
地獄の少女道化師Aと戦っている雷夢の背後。
三体目の地獄の少女道化師、
Cだ!
「雷夢!」
俺の叫びも地獄の少女道化師Aとの戦いに夢中になっている雷夢には届かない。
俺はダッシュして雷夢を突き飛ばす。
刹那、
斬っ!
超強化プラスチックで防御する間もない。
肩から腹にかけてバッサリ切断された。
地獄の少女道化師Cが、
「黄色い女を殺して、炎のルビーを巨乳の間から奪うつもりだったのに、邪魔すんじゃねーよ!」
さらに切りつけようと液状ムチを振るうが、
「雷糸!」
雷夢が地獄の少女道化師Cの腕をグルグル巻きにし、動きを封じる。
「よくも竜破を殺したアルな! 絶対許さないアルよ!」
俺はまだ死んでないが、
雷夢の全身が青白く輝き、
「雷糸っ・無限っっっ!!」
全身から無数の雷糸が伸び、三体の地獄の少女道化師たちをカイコの繭のように包み込む。
雷夢の怒声が響く。
「死ねっ!」
耳をつんざく雷鳴、閃光、スパークする紫電、地獄の少女道化師たちは、あっという間に沸点を超え、気化した。
上空にフワフワと地獄の少女道化師が雲と化し、怨めしげに雷夢を睨みながら風に吹き流されていく。
どうやら死んでないようだ。
俺と同じで、地獄の少女道化師も、ちょとした不死身らしい。




