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   ☆6☆


「なぜなのだ! なぜ新宿美術館に入れないのだ! 鬼頭警部の許可は取っているはずなのだ! 警部はあたしの親父殿なのだ! 本来なら顔パスで入ってもいいはずなのだ!」 

 烈火が若い警察官を相手にもめていた。

 所用があって、となりのビルから出てきた俺は、新宿美術館に向かい、烈火に声をかける。

「何してんだよ? まだ館内に入ってないのか? こっちは一仕事終わって来たってのに」 

 烈火が、

「猫はどうなったのだ?」

 俺は、

「保健所の職員に引き取ってもらったよ」

 烈火が、

「うむ! ナムアミダブツ! なのだ」

 烈火が玄関に入ろうとすると若い警察官が、

「君たち君たち、ここは君たちみたいな子供が入る所じゃないんだよ。

 炎のルビーを怪盗ゲロデムが狙っていて、予告状まで出してきたんだから、部外者は早く帰った帰った」

 新宿美術館の中からもう一人の先輩格らしい警察官が現れ、

「馬鹿っ! このお嬢さんは正真正銘、鬼頭警部の娘さんだぞ! さっさとお通ししろっ!」

 若い警察官が仰天し、烈火に敬礼する。

「しっ! 失礼しました! まさか、こんなヤンキーみたいに目付きの悪い、髪を赤く染めた女子高生が、本当に警部のお嬢さんだとは、思いもしませんでした! どっ、どうぞ、お通りください!」

 烈火がふんぞり反って、

「うむ! 分かればいいのだ! 分かれば!」

 風を切ってずんずん歩いて行く。そのあとを俺と星図が追う。

 すると、俺たちの背後から、

「ニャア」

 と、猫の鳴き声がした。

 星図が振り返って、

「あれっ? あの猫って、もしかして、さっき車に轢かれた猫じゃない?」

 俺が、

「んなわけないだろ。あの猫は死んだんだ。保健所の職員が引き取っていったよ」

 星図が、

「そうかなあ? でもさ、ほら、あの額にある、雪の結晶みたいな白い毛を見てよ。

 さっき見た黒猫にそっくりじゃん。そんな事って、滅多にないと思うんだけどなあ」

「ギクリ! いやっ、そんな事はどうでもいいんだよ、俺たちはゲロデム逮捕の手伝いに来たんだから、しのごの言わずに、さっさと美術館に入れよ! 男のくせに些細な事を気にする奴だな!」

 俺は星図を玄関の中に無理矢理押し込んだ。

 まったく、妙な所で鋭い奴だ。

「ウニャッ!」

 黒猫は一声鳴くと走り去って行った。その先に黒ずくめのドレスを着た、いわゆるゴスロリ少女が立っていた。もしかしたら、さっき猫を捜していた少女かもしれない。

 少女が黒猫を抱き上げる。

 俺は、

「黒猫の奴め。もしかして、俺に礼でも言いに来たのかな? まったく、余計な事をする黒猫だぜ」

 烈火が、

「何が余計な事なのだ? おや? あの黒猫は、もしかして」

 俺は慌てて、

「いや、全然、関係ない黒猫だから、気にすんなよ。それより、さっさと進めよ。さっきから全然、玄関から先に進んでないぞ」

 俺はとにかく烈火と星図を館内に押し込んだ。

 館内は大部分の照明が消され、だいぶ薄暗かった。

 要所要所に警察官が配置されて、アリの子一匹入り込めない厳戒態勢だ。

 廊下に並ぶ豪華な美術品に挟まれながら、しばらく進むと、五階まで吹き抜けになっている大広間に出た。

 高い天井は巨大な丸天井で、全面ガラス張りのドーム型だった。

 ガラス越しに見える空は、すっかり暗くなっている。

 広間の中央に分厚いガラスケースがあり、その中に、

 炎のルビーが燃えるように赤々と光り輝いていた。

 俺は、

「実に美しい。神秘的な宝石だな」

 烈火が、

「うむ! 綺麗なのだ!」

 星図が、

「だね」

 ガラスケースの前にトレンチコートを着た、大柄で体格の良い男性が立っていた。

 たぶん鬼頭警部だろう。

 烈火が男性に話しかける。

「親父殿! ゲロデム逮捕の助っ人に来たのだ! 応援も一人、いや、二人連れてきたのだ!」

 烈火が俺と星図を紹介する。

 鬼頭警部が、

「二人ともよく来てくれたのだ。ちょっとした社会科見学ぐらいに思ってくれればいいのだ。これだけ警戒厳重な警備のなか、炎のルビーを盗むのは、ほぼ不可能と言っていいのだ。気楽に構えて欲しいのだ」

 俺は、

「そんなに気楽には、なれそうにないですよ。さっそく緊張してトイレに行きたくなりました」

 星図が、

「訳すと、ビビってオシッコがチビりそう、だそうです」

 俺が、

「訳さんでいいわ!」

 鬼頭警部が、

「トイレはあの細い通路の先にあるのだ」

 俺がトイレに行こうとすると星図が、

「じゃあ僕もトイレに」

 烈火が、

「あたしも行くのだ」

 俺は、

「二人とも先に行ってくれ。俺はあとで行く」

 星図が、

「もしかして、大、なのかな? 僕は全っ然、そんな事、気にしないけど」

 と言って鼻をつまむ。

 烈火が、

「そ、そんなに臭うものなのか? あんまり臭うと、あたしも困るのだ」

 と言って鼻をつまむ。

 俺は、

「いいから、さっさとトイレに行ってこいよ!」

 俺から逃げるように二人がトイレに駆け込んだ。

「たくっ」


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