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   ☆58☆


 校舎に入り、上履きに履き変えていると、廊下から歩いてきた烈火とサヤに会う。

 俺は、

「春休みなのに二人とも何で学校に来てるんだ?」

 烈火が、

「竜破こそ何をしに来たのだ?」

「長期入院で授業が遅れていたから、その分を取り戻すために、補習を受けに来たんだよ。といってもプリント相手の自習だけどな」

 烈火が、

「そうか、あたしとサヤは刀剣部の部活で来たのだ」

 俺は首をかしげ、

「刀剣で乱舞?」

 烈火が首を振る。

「違うのだ、刀剣部なのだ。簡単にいえばチャンバラ部なのだ」

 俺は呆れながら、

「こんな朝っぱらからチャンチャンバラバラやってたのか?」

 烈火が楽しげに、

「うむ! いい汗をかいたのだ。サヤと戦うと、まさしく真剣勝負なのだ」

 俺は、

「ていうか、よく学校が許可したな。部員は五人以上必要だろう」

 烈火がうなずき、

「ちゃんと五人いるのだ」

 俺は疑問を口にする。

「他の三人は誰だ?」

 烈火はさらっと、

「もちろん竜破と星図と巡なのだ」

 俺は、

「俺は入部した覚えは無いんだが」

 烈火が胸を張り、

「心配しなくていいのだ。あたしが入部届けにキッチリ、竜破と星図と巡の名前を書いておいたのだ」

「筆跡が全部一緒だろう。

 誰が顧問なんだ? そんな、人の許可も得ないで、勝手に捏造した入部届けを、あっさり受理したマヌケな教師は?」

 烈火が高らかに、

「担任の律華先生なのだ!」

 俺は溜め息をつき、

「そうか、それじゃ仕方ないな」

 サヤが、

「そうデス。仕方がないのデス。だから、竜破も一緒に楽しく刀剣で乱舞しましょう」

 俺は、

「先に補習だな。それと、刀剣で乱舞は、ちょっと考えさせてくれ」

 刀剣部の事はいったん脳内から閉め出し、教室に向かう。すると、

 廊下の先に見慣れない、

 謎の少女が腕を組んで仁王立ちしていた。

 アフロに近い爆発気味かつ、ピンク色をしたボンバーヘッド。

 パッチリ開いた猫みたいな瞳。

 気の強そうな、逆八の字の眉。

 それに、への字口。

 そこからキラリと八重歯が光る。

 キュートな顔立ちの美少女だ。

 うちの制服ではなく、ミニスカタイプの黄色いチャイナドレスを着ている。

 明らかにウチの生徒ではない。

 少女が、

「ようやくゲロゲロ、デロデロ〜で噂になっている、怪盗ゲロデム一味が全員、そろったアルね。まとめて捕まえるアル!」

 俺は、

「何か勘違いしてないか? 俺は普通の高校一年生で」

 美少女が逆八の字の眉をしかめ、

「ネタは上がってるアル! 

 香港特零区・亜人街の情報屋が見つけた監視カメラの動画を見るアル!」

 少女がスマホを取り出し、画面を向ける。そこには、

 俺が炎のルビーを手に、烈火と戦いながら新宿御苑に入る様子や、サヤも加わった三人が、校庭で水虎と地獄の少女道化師と戦う様子や、俺が怪盗アールに変装する瞬間を収めた、防犯カメラの映像などがあった。

 少女が、

「お前が持っていた炎のルビーは、

 新宿美術館で怪盗ゲロデムに盗まれた炎のルビーアル! だ・か・ら、お前は怪盗ゲロデム、アル!」

 俺は炎のルビーを取りだし、

「なら、こいつは、お前さんに預けておくわ」

 炎のルビーを少女に放り投げる。それをキャッチした少女が、

「なっ! 何の真似アル?」

 俺は、

「本当のゲロデムなら絶対にお宝を手放すような真似はしないだろう。

 奴は宝石に目のない、宝石キチガイだからな。それでも、

 今まで奪いに来なかったのは、烈火のゲヘナスを警戒しているからだ。だけど、

 そいつを持っているのが、あんただと知ったら、本物のゲロデムは十中八九、あんたの持つ炎のルビーを奪いにくるだろうな」

 少女が俺を値踏みするように睨んだあと、

「お前が言っているのは、校庭で戦った相手のことアルか? 

 あっちが本物のゲロデムって言うアルか?」

 俺はうなずき、

「そうだ」

「それを証明する証拠は何も無いアル。だけど、炎のルビーをアタシに渡した事に免じて、お前を捕まえるのは勘弁してやるアル」

 俺は、

「ありがたいね。無用な戦闘は避けたほうがいい」

 少女が腕組みし、

「そのかわり、お前がゲロデムだった場合にそなえて、いつでもお前を捕まえられるように、二十四時間、監視するアル。

 一瞬も目を離さないアル」

 え? 何か、話が変な流れになってきたぞ。

 俺は、

「えっと、それって、どういう事だ?」

 少女が、

「お前の家に泊まり込んで、ずっと見張るアル。ホテル代も節約出来て一石二鳥アル」

「はああああっっ!?」

 サヤが、

「同棲デスね」

 烈火が、

「ど、同棲!? ダメなのだ! 許さないのだ! 何か間違いが起きたら、いったいどうする気なのだ!」

 しかし、考えようによっては良いアイデアかもしれない。

 炎のルビーを持っている少女が近くにいれば、俺が持っているも同然だ。

 そこに星図がやって来て、

「どうしたの、みんな? 朝っぱらから大騒ぎして。

 って、あれ、雷夢じゃないか!  どうしたの? 

 何で東京にいるの? 

 にしても、久しぶりだね。

 てっきり、まだ仙術の修業をしているのかと思ったよ」

 突然、現れた星図がそんな事を言い出す。

 俺は、

「知り合いなのか? 星図?」

 星図がうなずき、

「僕のいとこだよ」

 少女が、

「アタシは、

 猿風雷夢さるかぜ・らいむアル。

 悪い亜人と思われる、怪盗ゲロデムを捕まえるために、香港特零区から来たハンターアル。

 ちなみに、修業は一時中断しているアル」

 星図が、

「大丈夫なの? 修行をやめたら、刀華おばさんが怒るんじゃないの?」

 雷夢が目を泳がせ、

「だ、大丈夫アルよ。母ちゃんには、あとでちゃんと説明するアル。それより星図、雷華おばさんと郷太おじさんは元気アルか?」

 星図が、

「元気がありすぎて、いつも夫婦喧嘩ばかりしているよ。まあ、喧嘩するほど仲がいいって言うけどね」

 雷夢が、

「日本のことわざは、アタシには難しいアル。蘭花おばさんは相変わらす声優をやっているアルか」

 星図がうなずき、

「うん。いまだに人気があるから凄いよね。超ベテラン声優だよ」

 雷夢が急に険しい顔をして、

「ところで星図、ゲロデムみたいな悪党と付き合うのは、やめたほうがいいと、アタシは思うアルよ」

 俺が、

「待て待て、俺がゲロデムって証明出来ないって、さっき雷夢自身が言ってたよな」

 雷夢が、

「でも、これを持っていたのも事実アル」

 と、胸元、正確には、巨乳の谷間から炎のルビーを取り出そうとするのを俺は押さえ込み、

「ちょっと待て待て」

 星図は俺が炎のルビーを盗み出し、そいつをオトリにして地獄の少女道化師と戦っている事を、まったく知らない。

 俺は、

「その事は、俺の家でゆっくり話そうじゃないか。どうせ家まで付いてきて、俺を監視するんだろ」

 仕方がない。

 俺は補習を諦め、雷夢を家に連れて行く事にする。

 どうせなら、早めに雷夢を家族に紹介して、同居の許可を取ったほうがいいだろう。

 ともかく、そこで、ゆっくり、これまでの経緯を話すとしよう。

 俺は、

「だから、そこで、ゆっくり、心ゆくまで、これまでの経緯を話してやるよ」 

 サヤが、

「いよいよ同棲生活が始まるのデスね」

「始まらねーよ!」 

 烈火が、

「同棲して子供が出来たらどうするのだ!」

 俺は、

「出来ねーよ!」

 星図が同棲うんぬんには触れずに、

「でも補習はどうするの? その為に、わざわざ学校に来たんでしょ」

 俺は、

「補習といってもプリントをやるだけだから、家に持って帰ってやればいいんじゃないか」

 星図が心配そうに、

「大丈夫かなあ」

 俺は、

「大丈夫だ。今の俺はそれどころじゃない、大きな問題を抱えているんだ。だから、あとは頼んだぜ、星図」

「え~~~?」

 俺はきょとんとしている星図をあとに、教室に行ってプリントをカバンに仕舞い、校舎を出た。

 途中、シアロンと会う。

 俺が、

「学校に用事かい?」

 と聞いても、シアロンは上の空、その視線は雷夢の胸元に集中していた。

 雷夢は巨乳だからな、洗濯板のシアロンが憧れるのも無理はない。

 なんて思っていると、シアロンが、

「べっ、別に、巨乳に憧れてるわけじゃないからな、愚民! ヘンタイ!」

 読心術のように俺の心を読んでから校舎に入って行った。

「結局、何しに来たんだか?」

 さらにその途中、今度は巡に会う。

 巡が、

「あら、補習はいいのかしら?」

 俺は、

「巡こそ何やってんだよ?」

「占いで新宿に行くと良い事があるって出たのよ。それで、

 遊びに来たってわけ。

 ところで、あのチャイナ服の女の子は誰かしら?」

 俺は、

「いや、星図のいとこなんだが、俺が街を案内している」

 巡が俺たちを見やり、

「へえ、烈火とサヤも連れてねえ。まるでハーレムね。それはともかく、あなたたちの運勢を軽く占ってあげようかしら」

 そう言ってタロットカードを取り出す。

 俺は、

「いいよ、巡の占いは百パー当たるのが、かえって恐い」

 巡が憤慨したように、

「何わけの分からない事を言ってるのよ。当たるにこした事はないでしょ」

 言いながらカードを一枚ひく。が、急に巡が固まり、

 こっそりとカードを戻そうとする。

 俺はカードを押さえ、

「待て待て、何で戻すんだよ。気になるじゃないか」

 巡が深刻な顔つきで、

「世の中には、知らないほうが幸せな事もあるのよ」

「いや、余計に気になるっつーの、そのカードを見せろよ」

「仕方ないわね」

 巡がカードの絵柄を見せる。

「死神のカードよ。

 二度連続で死神が出るなんて、滅多にない事だから、かえって運がいいかもね」

 俺は皮肉げに、

「悪い意味でな」

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