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☆52☆
日陰大学病院の受付の看護婦に俺はたずねる。
「ちょっと、いいですか、あの、半年前の事なんですけど、
去年の九月十一日に早乙女教授がこの病院に来てないでしょうか?」
若い新人っぽい看護婦、
「早乙女教授って、あの大学のほうの、生物学の教授ですよね。日陰蝶を発見した事でも有名な」
俺は、
「そうそう、その教授です」
看護婦がちょっと警戒したように、
「ご家族の方ですか?」
俺は、
「孫です」
と嘘をつくと看護婦が納得し、
「分かりました。ちょっと待ってくださいね」
バソコンをいじり、
「あったわ。確かに、
九月十一日に早乙女教授が病院に来てるわよ」
炎華が、
「救急で来たのかしら?」
看護婦が、
「救急? でも症状は」
「こらっ! 患者の個人情報を教えちゃダメでしょ!」
婦長らしき女性が叱る。
看護婦が、
「でも、孫なんですよ」
「言い訳はしない! ダメな物はダメなの!」
俺は、
「じゃ、俺らはこれで失礼します」
と言って逃げ出した。その後も婦長の説教が続いたようだ。
病院を出たあと俺は、
「これで早乙女教授のアリバイは完璧だな」
炎華が釈然としない様子で、
「そうらしいわね」
俺は、
「何だよ。まだ疑ってんのかよ?」
炎華がそっぽを向き、
「なんとなく、すっきりしないだけよ」
そう言って肩をすくめ、
「美墨ホテルに行きましょう。マープルおばさまに頼んで、事件当日の宿帳を見せてもらうのよ」
俺はピンときた。
「はは~ん。なるほど。事件当日、二度目にホテルに入った早乙女教授が本当に本物か、筆跡を調べようってわけだ。
さすがは美少女名探偵雪獅子炎華ちゃんだぜ。目の付け所が違うな」
炎華が冷淡に、
「ほめても何も出ないわよ。さあ、行きましょう」




