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第四話
~美少女名探偵☆雪獅子炎華~
☆47☆
地獄の少女道化師が東北に潜伏している、という情報をつかんだ俺は、春休みを利用して単独で東北へ向かった。が、結局、ガセネタだった。
虚しく帰る途中、
ズキューーーン!
ホテルの前を通りがかった所で、早朝の空気を震わす銃声が雪山に鳴り響いた。
ホテルを見上げると、
三階の窓に銃痕がある。
俺は迷わずホテルの三階へかけ上がって行った。
三階はかなり広いラウンジだ。
酒を提供するバーに、ソファーに、テーブル。
大きな窓ガラスに銃痕。そして、
窓際に少女が倒れていた。
白いドレスの胸から鮮やかな血がしとどに流れ、床一面を血だらけにしていた。
少女のそばに黒猫が一匹いて、
「ニャアウ」
と鳴きながら少女のまわりをウロウロしていた。
俺は、
「こりゃ酷いな。ライフルで一撃かよ」
少女と窓の銃痕を見比べながら言う。
「リフトの先にある山小屋から狙ったな。距離にして九百メートルはあるから、撃った奴は、ゴルゴ13並みの、凄腕のスナイパーだな」
俺は少女に手をかざし、じっと見つめる。すると、
少女の身体に緑色に光る走査線が走り、
その部分がみるみる修復されていく。まるで、
フィルムの逆回転を見るように。
しばらくすると少女の身体は完全に修復された。
少女の瞳が開き、ゆっくりと立ち上がる。
不思議そうに、
「何で、私はこんな所に倒れていたのかしら?」
黒猫に問いかけているようだ。
俺は、
「誰かに撃たれたんだよ。
弾丸が頭の近くを通ったから、
衝撃波で三半器管が麻痺して気を失ったんだ」
俺は亀裂の入ったガラス窓を指差し少女に説明する。
俺は続けて、
「君は、誰かに恨まれる憶えとかないかな?」
少女が皮肉な笑みを浮かべ、
「数えきれないほどありすぎて、特定出来ないわね」
俺は肩をすくめ、
「ともかく、このホテルに泊まり続けるのは危険だ。どこか、別の場所に泊まったほうがいい」
少女が思案し、
「それなら、
美墨ホテルがいいわね。神隠し山近くにあるホテルよ」
俺はうなずき、
「そうか、それじゃ俺も一緒に行こう」
少女が首をかしげ、
「ボディーガードでもしてくれるのかしら?」
「君の安全が確保されるまではな」
少女がうなずく。
「私は雪獅子炎華、探偵よ。この子はユキニャン。猫だけど、私の相棒なの、よろしくね」
炎華が、
「それで、お兄さんのお名前は何て言うのかしら?」
「俺はアルセーヌ、じゃなくて、
有世竜破だ。
虹祭学園に通う、ごく普通の高校一年生だよ」
ちょうど学園の制服である、緋色のブレザーを着ていたので、炎華もすぐ納得したようだ。
俺は、
「それじゃ、その美墨ホテルとやらへ行こうか」
炎華がうなずき、
「そうね。
真亜古おばさまに会うのも久しぶりだわ。楽しみだわ。元気にしているかしら?」
俺は、
「ミス・マープルの事か?」
「そうよ。竜破はマープルおばさまの事を知っているのかしら?」
「実は前世で」
炎華が不思議そうに、
「前世?」
「いや、何でもない。こっちのミス・マープルも探偵ごっこをしているのかな?」
ミス・マープルは、
アヴァロン帝国では、ちょっと有名な素人女探偵だ。
炎華が、
「若いころは美少女名探偵として一世を風靡していたそうよ。今は引退して美墨ホテルのオーナーをしているわ。年齢を聞いた事はないけど、七十近いんじゃないかしら。探偵はもう無理よね」
俺は驚き、
「ミス・マープルがそんなバアさんに!? い、いや、こっちのマープルは俺の知っているマープルとは違うんだよな。異世界だからな」
炎華が不思議そうに、
「異世界?」
俺は慌てて、
「いや、何でもない。こっちの話だ」
炎華が不安そうに、
「お兄さん、本当に大丈夫かしら? ちょっと心配ね、ユキニャン。中二病なのかしら?」
「ウニャッ」
黒猫が肯定するように鳴いた。
俺は、
「大丈夫だって、ちゃんと美墨ホテルまで送るから、大船に乗ったつもりでいな、美少女名探偵炎華ちゃん」
疑いの眼差しで俺を見つめる炎華が、
「仕方がないわね」
と溜め息をつき、いったん自分の部屋に戻り、美墨ホテルへ向かう準備を始めた。
ゴスロリ姿に着替えた炎華を見て俺は、
「炎華はゴスロリ姿のほうが何となくしっくりくるなあ」
炎華が問う。
「それは何でかしら」
「いや、なんとなく。何だろう? ダークなイメージが合っているっていうか、何となくだな」
炎華が首を振り、
「よく分からないわね」
「つまり、美少女名探偵炎華ちゃんって、感じがするんだよ」
炎華が肩をすくめホテルを出る。
俺もそのあとに続いた。
結局、俺は炎華が死んでいた事や、不可思議な能力で生き返らせた事を一切しゃべらなかった。
どうせ信じてもらえないだろうしな。




