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☆45☆
水虎は燃え尽きて灰も残らなかった。
ゲヘナスの胸元が開き、内部から烈火が出てくる。すると、地面に沈み込むようにゲヘナスは獄界? に戻って行った。
烈火が得意満面に、
「あたしが言った通りなのだ。ゲヘナスを召喚すれば一網打尽なのだ」
俺は、
「まあ、そうだな。地獄の少女道化は逃げちまったけどな」
烈火が地団駄踏んで、
「なにいいぃぃっっ! 肝心かなめのゲロデムを逃がしてしまったのだ! 大失敗なのだ! まったく気がつかなかったのだ!」
俺は、
「ま、次は頑張ろうぜ」
烈火が悔やしがるなか、俺は熱風に煽られ、宙を舞う包帯の切れ端をつまんだ。
水虎との戦いで切れたサヤの包帯か? と思ってよく見ると、
「へえ、なるほどね」
その包帯は、特殊な防刃製の布で出来ていた。
俺はサヤに向かって言う。
「その包帯、もう外しちまって、いいんじゃないか? お優しい、サヤお嬢ちゃん?」
サヤが胡乱げに俺をながめ、
「茶化しているのデスか? 私は肌荒れだと、教室で説明したじゃないデスか」
幻魔剣を逆手に持ち、不遜な事でも言おうものなら、即、切る、みたいな風情だ。
「まあ、そう怒るなよ、サヤ。その包帯って、特殊な防刃製だろ。それってつまり」
「つまり?」
サヤがニジリ寄る。
「お前さん。九百九十九本の魔剣を完全に制御している、ってわけじゃないって事だ」
サヤが包帯の奥の瞳を光らせ、
「つまり、何デスか?」
デスが死のデスっぽくなってきたな。
「つまり、眠っている時や、ボーっとしている時に、無意識のうちに、お前の制御を無視して飛び出しちまうって事だよ」
サヤが感心したように、
「よく、その秘密に気がつきましたね。正解デス。それで、どうしますか? 私が眠っているスキに、魔剣を強奪しますか?」
刀身に殺気が伝わる。
俺は、
「さっきも言ったろ。お前は優しい奴だって。その包帯は、無意識に魔剣が飛び出して、人を傷つけないようにするためだ」
サヤが、
「そうでしょうか?」
俺はニヤリと笑い、
「異世界アヴァロンの大怪盗アルセーヌ・ルパンの推理だ。間違っているはずがないな」
俺はアヴァロンからこの世界に転生したいきさつをサヤに手短に話した。
サヤが、
「にわかには信じ難い話デスね」
俺は肩をすくめ、
「九百九十九本の魔剣も同じようなもんじゃね」
サヤが微笑を浮かべると、包帯が突然、緩み、地に落ちる。
その下の顔は、
雪のように白い肌。
愁いを帯びた切れ長の瞳。
妖しく輝く紅い唇。
寒気を感じる傾国の美少女だ。
残念な事に、顔以外はまだ包帯をつけたままだ。
「いいでしょう。お互いに、異能力者を捜す、という目的は一致していますからね」
それは初耳だ。
「異能力者を追っ掛けてたっけ?」
サヤが、
「だから、あなたや烈火を追って、わざわざ虹祭学園に潜入したんじゃないデスか。ともかく」
鮮やかな笑みを浮かべ、
「そろそろ授業が始まるから、教室に戻りましょう」
ちょうど、午後の授業の開始を告げるチャイムの音が鳴り響き始めたところだった。




